育児休業法もだがサービス産業主体の行政が必要
日経新聞社説「実効ある育児休業法を」が興味深かった。ある意味難しいのだが、よく書けていたと思う。テーマは標題どおり育児休業法の改正案についてだ。例題の取り上げたかたがうまい。
現行法は子供が1歳に達するまでしか育児休業を認めていない。だが保育所の多くは年度替わりの4月入所となっており、早生まれの子供などは親の休業期間が終わった後の翌春まで入所を見送られがちだ。改正案が、こうした特別な事情がある場合に限り最長1歳半までの休業延長を認めたのは、妥当といえる。
保育所の現状を知る人間は社会的には少ないのかもしれないが、日経が指摘するこの保育所問題は、経営努力を進める企業の視点から見ると、けっこう呆れた印象を与えるものだ。現在、文科省管轄の幼稚園は少子化の影響と、それの派生であるシックスポケット(一人の子供のパトロンが六人もいる状態)効果から、保育所とは異なる奇妙な洗練に向かっている。がそれでも、幼稚園には変化はある。厚労省管轄の保育所については、ただひどいな、という印象を持つだけだ。
日経は現行の保育所のシステムを前提としたうえで、育児休業法側の問題で見ているが、社会と育児の関係でいえば、まず、保育所のシステムを改革し、それに補う形での育児休業法が必要になるだろう。もちろん、正論を言うは易く、実際は難しいというのもわからないではない。
今回の育児休業法の改定で重要なのは、パート労働者の問題だろう。日経はこう切り出している。
画期的なのは、期間を限って働くパートタイマーや契約社員への適用拡大だが、これについては疑問も残る。過去1年以上雇用されていて、子供が1歳になっても雇用継続が見込まれること、ただし2歳時点で雇用関係の終了が明らかな場合は除外という厳しい条件がつくからだ。
当然ながら、この条件自体、生活人の実感すると、ほぼナンセンスだ。日経もこの先の文脈で指摘しているが、事業主は雇用の期間を短縮するだけだろう。ではどうしたらいいかというと、私もまるで解決策が見つからない。この問題の背景は、またしても年金問題、つまり第三号被保険者の問題である。企業側で第三号被保険者の対応ができなくなり、増える女性のパート労働者に国としても対応したいということだ。
日経の批判というわけではないが、次の結語には違和感が残る。
すでに女性雇用者に占める非正社員の割合は過半数に達し、有期契約者も500万人程度と目される。企業にとって代替要員確保などの人件費増は頭痛の種だが、公正な処遇が労働意欲の向上や良質の人材確保につながれば、長期的には企業にも有益なはずだ。現在、女性の育児休業取得率(64.0%)に比べて男性のそれ(0.33%)は極端に低く、政府の目標値10%にも遠く及ばない。法案は触れていないが、男性の取得促進策も今後の課題だろう。
違和感というのは、男女という言葉からはあたかも対等のようだし、また頭数という点でもそれほど男女差の問題は大きくはないのだろうが、女性雇用者の多くがパート労働者であることから考えても、日本の産業全体に占める彼女ら貢献の比率は、おそらくかなり低い。日経のこの結語では、そうした点で、女性の労働力をある意味捨象している印象を受ける。そこを見逃して、理想のようなものを述べてみても、違うのではないか。
日本の産業は今後さらにサービス産業に向かわざるを得ない。だから、女性の活躍の場は広がるようにしなくてはならない。また、基本的にそうした女性の雇用の場は、形態としてはパート労働者に近いものであっても、現状のスーパーのレジといったパート労働者のイメージを変えていかなくてはならないだろう。
端的に言えば、女性が常勤でなくても十分にサービス産業から所得が得られるような社会に変革していけば、常勤でないメリットが育児を含めた個人の生活に活かせるようになる。もっとも、育児を女性に任せろという暴論ではないが、育児される子供の側は「母親」をどうしても必要とする機会は多いというのが育児なのだ。男性の休業が取りやすいというのも解決の一端だろうが、よく見かける育児パパといった面白い話題ではシステム的な対応にはならない。
とすれば、問題の基底には、いわゆる男社会とされている産業の構造を、製造業(輸出産業)主体からサービス産業主体に変えていく必要性があるはずだ。が、それを志向せできないことこそ、日本の行政のシステム欠陥なのだ。
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