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2004.02.19

日本の景気は回復しているのだが

本文を読まれる前に

 本稿について、noriさん、svnseedsさんより、重要なコメントをいただいた。本文に併せて読んでいただきたい。
 noriさんからは、外需主導への疑問が提示された。この点について、私はまだ十分に理解できていない。今後の考察を深めたいと思う。
 svnseedさんからの指摘はクリティカルなものだった。まず、為替介入の基本事項として日銀は実動であり決定は財務省ということ。確かに、この点は誤解されやすいし、私も失念しがちだったと反省する。
 もう一点、日本の米国債買いは、「米国貢ぐ」といった陰謀なのかについてだが、端的に、私は陰謀論は採らない。が、結果として「貢ぐ」ではないかという思いは十分に解消されない。この問題については、別途、稿を起こしたい。

 今朝の新聞各紙のテーマは、昨日発表された内閣府による国内総生産速報だ。昨日の極東ブログ記事「木村剛『デフレの終わりは始まったか?』に」もこれを見て書いたものなので、基調の考えは同じだ。
 概要は読売新聞社説「GDP統計 『高成長』の実感はまだ乏しい」がわかりやすい。なお、よりわかりやすいのは読売マネー「GDP年率7.0%増 13年ぶり高水準 設備投資に力」(参照)である。


 昨年十―十二月期の国内総生産(GDP)は、七―九月期に比べて実質で1・7%増、年率換算で7・0%増と、事前の予想を大きく上回る高成長を記録した。年率で7%を超えたのは、バブル期の一九九〇年四―六月期以来、実に十三年半ぶりだ。

 まず、これを事実として受け止めたい。つまり、統計はそうだが実際は違う式の論法はとらない。
 この景気回復について、新聞各紙社説の受け止め方には弱いながらも賛否の差異があり、政策への提言が違う。この差異のスペクトラムのなかに真相があるとも思えないのだが、差異自体が面白いと言えば面白い。軽く巡ってみる。
 朝日新聞社説「GDP――民の底力が引っ張る」では依然デフレ(「物価下落に歯止めはかかっておらず」)としてこうまとめている。なお、依然デフレという認識は正しい。GDPデフレーターは前年比2・6%下落。

必死で努力する会社が業績を伸ばす一方で、市場の変化に対応できず改革ができない企業は沈んでいく。二極化が進むなかで、全体として経済が拡大しているというのが、今回の構図である。

 そうだろうか。朝日はまたぞろ「新三種の神器」を持ち出すが、それは話の筋が違う、なにより結論からはちぐはぐな印象を受ける。

それには金融の機能を回復させることが欠かせない。政府は不良債権問題の解決に全力を挙げ、民間企業が自力で立ち直る条件を整える。それが、日本経済がデフレから脱し、復活することにつながる。

 金融機能回復という看板はいいのだが、それが不良債権問題に連結しているのは論理飛躍がある。サヨク一流の精算主義と笑って済むことなのか、ダイエー・UFJ問題を織り込んでいるのか多少気になる。
 日経新聞の社説「景気拡大の持続力を高めるには」は朝日ほどのズレ感はないものの、結論的には朝日と同じなので省略する。
 読売新聞社説「GDP統計 『高成長』の実感はまだ乏しい」は、概ねプレーンな解説なのだが、主張としては、なお金融政策などでデフレ解消を勤めよということだ。産経新聞も同様の論状であるのでこちらは省略する。
 読売新聞の社説では次の点に注目したい。

 日銀は一月、追加的な金融緩和に踏み切った。これに対し「景気が回復しているのに、緩和を続けるのはおかしい」との批判が出ている。
 だが、本格回復の障害となっているデフレが続く限り、日銀がその脱却を目指し、金融政策で粘り強く対応するのは、正しい姿勢である。 

 これは毎日新聞社説「7%成長 介入と緩和見直す時が来た」のような議論と対立している。
 毎日新聞は標題とは裏腹にやや韜晦に書いている。本音は標題どおり、リフレ反対である。結語はこうだ。

 日銀が心理効果狙いで量的緩和を続ける時期は終わった。政府が円高阻止のため円売り・ドル買い介入しても、景気の持続に資するとは考えられない。そうであるとすれば、政府は財政再建に踏み出し、日銀は本来の金融政策に復帰する道を探るべきである。企業も本当のリストラ(事業の再構築)に取り組まなければならない。

 結語だけ取り出しても、わかりづらいかとは思う。この結語をどのように議論がサポートしているか気になるところだ。が、私は、この結語は議論によって支えられていないと読んだ。最初にこの結論ありきと受けた。
 各紙社説のスペクトラムは、概ね、以下の軸でまとまる。

  • 金融緩和をなお推進せよ(読売・産経)
  • 構造改革を推進せよ(朝日・日経)
  • 金融緩和を止めよ(毎日)

 しかし、この議論の軸自体有効なのだろうか? むしろ、そうした軸からこぼれ落ちる部分が重要であるように思える。いくつか拾ってみたい。
朝日

日本政府が為替介入で得たドルで米国債を買って、米国の貿易赤字と財政赤字を支える。そのおかげで米国の景気が保たれ、まわりまわって日本企業が潤う。こうした図式はいつまで続くのだろうか。

読売

 成長率を押し上げたのは、日本経済を牽引(けんいん)するエンジン役の輸出がかなり力強くなってきたためだ。
 米国や中国の高成長を受けて、輸出は前期比4・2%増と伸びた。特に、中国向け輸出は昨年一年間で、前年よりも33%も急増している。輸出拡大を受けて企業が工場拡張を始めた結果、設備投資も5・1%増と拡大した。

毎日

 しかし、その先は、わからない。巡航速度の成長かもしれない。建設や情報技術(IT)などでバブル的状況が生まれるかもしれない。中国のバブル崩壊などの要因で、急激に減速するかもしれない。設備投資では建設業の寄与が大きくなっているが、その主力は工場、オフィスビル建設である。東京を中心とした都市再開発ブームは必ずしも、実需に根差しているとは言いにくい。

 二点思うことがある。まず、現在の好景気は米国輸出主導と見ていいだろう。そして、それが可能なのは、日銀が膨大な規模でドル安阻止を行っているからだ。また、その膨大な資金の一部は結果として国内の量的緩和にも循環している。これが緩和なリフレ策を押している。
 私の見解は稚拙かもしれないが、現状の緩和なリフレ策は結果としてはリフレ効果を生むのだが、ドル買いなどは、およそ政策と呼べるものだろうか。日米間のとんでもない詐術ではないのか、それが疑問だ。
 もう一点は、毎日の指摘にある程度同調してしまうのだが、中国バブルの懸念は高いと思う。また、日本の都市化による内需は日本の田舎を疲弊させてしまう。これは構造変化として見過ごしていいことなのだろうか。うまく言い得てないので、極論すると、日本は日本内部に新日本を作りだし、ローカルな部分をコロニアルなものに変化させているのではないだろうか。ただし、搾取被搾取といった古典的な図ではない。むしろ、都市からのローカルへの贈与だ。ちょうど先進国が途上国に贈与を行うことでその関係を固定化しているように。
 極東ブログらしく、笑いを取るような表現で締めてみたい気もするが、ピーター・タスカの日本版ニューズウィーク「日米が突き進む『金融心中』への道」(2.11)を借りたい。

 財界人、官僚、改革派の政治家など、エリートは財政危機が迫っていると口々に言い立てる。メディアは年金制度が破綻するというホラーストーリーを書き立て、ベストセラー小説が国債の暴落を予言する。政府は税率を上げて歳出を削減し、庶民は長年にわたって痛みに耐える覚悟をすべきだと、誰もが口をそろえる。
 エリートは国民にそう伝え、国民はそれを信じる。だが、現実はまったく違う。日本政府は国内で歳出を抑えているのに、海外では何十兆円もの金を平気で投じている。日本の大手輸出企業の利益を守り、アメリカ中流階級の過剰消費を支えるためだ。日本は構造改革を進めるどころか、途上国的な輸出至上の思考パターンに後戻りしている。

 私はそれに同意する。プロジェクトXなら泣いても笑ってもいい。泣くも笑うも語り口の問題だから。しかし、「途上国的な輸出至上の思考パターン」は笑えない。それが、日本の悪しき(市民を抑圧する)権力の機能だから、だと、私は考えるからだ。

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コメント

米向け輸出主導の景気回復、というのは決まり文句になってます
けれど、財務省貿易統計を見ると、03年度の米向け輸出は、
金額ベースで-10%です。大きな要因は、円高かと思います。
02年度の平均レートが125円なのに対し、03年は116円。
約7%の円高です。finalventさんは、米向け輸出を景気回復
の要因に挙げ、その理由を、日銀のドル安阻止に求めておられ
ますが、ちょっと違うかと思います。そもそも、03年度下期は
円高の進行が急速で、米向け輸出は伸びていません。日銀がドル安
(円高)阻止に動かなかったら、米向け輸出はもっと悪くなってい
たはずです。よって、日銀の介入は、「対処療法」というよう
なもので、今回のGDP成長の牽引役、とは言えないのではないで
しょうか。

投稿: nori | 2004.02.19 11:51

noriさん、コメントありがとうございます。示唆されている点、とりあえずのところは理解できます。つまり、今回の景気回復は米輸出牽引ではない、という点ですね。率直なところ、もう少し他のかたのコメントを待ってみます。というのは、まだその考えにすっきりと腑に落ちないのです。

考えを明確に転換するときは、本文修正(明白な形で)ないし、本文追記します。

繰り返しますが、noriさんのご指摘は、正しいのではないかとは思うのですが、十分に説得されないなという感じなのです。

投稿: finalvent | 2004.02.19 12:11

ども、こんにちは。

米向け輸出主導の景気回復というのが決まり文句になっているというのは確かだと思います。

日本の景気回復という言い方が、どの程度正確なのか私には理解しかねます。すでに「日本の企業」というくくり方が意味を成さないような状況になっていると思います。

大企業の多くは、アメリカへの輸出の売り上げが高い、ということなんではないのでしょうか。
日本全体の企業で見た場合、その数値が減少しているかも知れませんが、それがメディナの中で話題になることが少ないと思います。

すくなくとも、デフレが増加傾向にあるのか、景気は回復しているのかということに関して、個人的な感触では納得できないようなことも多くあります。

なんだか、少しずつ生活レベルでの「低価格化」の波はなくなり、「標準価格」が上がり始める波を感じます。
それが、誰かの意図するものなのか、景気回復の波に引っ張られているのか、それはわかりません。

個人的には「景気回復」そのものには何の意味もないと思いますが、とりあえず国民が景気回復した、と思い込めば、実際に景気が回復していくのかもわかりません。

なんか、いろいろ書いてしまいました、すいません。

投稿: らした | 2004.02.19 15:09

返答いただきありがとうございました。仕事の合間にこっそり覗かせて貰っています。山形浩生のチョムスキー本書評への突っ込みを読んで以来、いつも「おおっなんとこの人は博識なのだ」と感動しながら読んでおります。

さて、今回のGDP成長については、日経の記事によると、前期比伸び率1.7%のうち寄与度は、内需1.4%,外需0.3%とありました。03年度10~12月度については、やはり内需が堅調に伸びてきたことが成長を呼び込んだと言えるのかなと思っています。

とはいうものの、私も景気変動についてきちんと学んだわけではないので、どなたかコメント頂けるとありがたいです。

ちなみに、私の仕事は輸出関連なので、この円高には本当に困っています。特に、米向けは採算ぎりぎりといった感じです。そういった実感もあるので、米向け輸出が景気を牽引という点にはやや疑問を感じたわけです。

投稿: nori | 2004.02.19 15:21

らしたさん、noriさん、どうもです。noriさんのご指摘は、後で追記に含めようと考えています。

なんとなくためらっているのは、日銀の円買い支えとその結果としての米国債買い入れ、そしてそれによる米経済の日本による支え、という土台の上に、どちからというと、誤差のような輸出の伸び悩みがあるのかなという思いがあります。中国向け輸出はそれほど考慮はしていません。

全体構図として、そうじゃないよ、やっぱ内需だよ、というのがはっきり見えないものだろうか、それが、おおっ!と見える、あるいは説得されると、いいなとも思うのです。

くどいようですが、大筋として、ブログの末に引いたタスカの批評をうまくかわせないように私は思っています。

繰り返しますが、自説を固持したいとは思いませんし、私は、いわゆるリフレ派より政治ファクターをつい重視するので、そのゆがみがやはりゆがみなのか、という点に慎重でありたいと思います。

投稿: finalvent | 2004.02.19 17:29

どうもです。

まず基本的事実の確認ですが、介入を行っているのは財務省であり、日銀ではありません。詳しくは確か日銀のページかどこかにありましたが、介入の決定権は財務省、実働が日銀です。

また、今回の高率な実質成長については全く分析していないので何もいえないのですが、昨年春より、円高に我慢できない財務省が大量に介入を行い、それを当座預金残高引き上げで日銀がサポートする、という形で、実質的な「ミニリフレ」が行われている可能性があります。
もちろんこんな迂遠な効率の悪いことをせずとも、さっさとインフレ率のターゲットを宣言して大量に国債買いきりを行った方がよっぽどマシなことは言うまでもありません(正しく行えば「結果として」円安になります)。とにかく名目成長率が低い状態ではいくら実質で成長しても無駄だ(税収は名目値)という点を強調しておきたいです。

それと介入で何か日本は損をしているのではないか、という印象ですが(特に毎日新聞の言説において顕著ですが)、僕の日記でも参照したCSFBの:
http://www.csfb.co.jp/client_entrance/research/fid/gfxffi040202.pdf
をご覧になると印象が変ると思います(財務省には介入するインセンティブがもうひとつある・・・)。如何でしょうか。

なお、僕としては、いかなる形であっても、日本は米国に貢いでいる、という考えはかなり怪しいと考えざるを得ません。そもそも「米国に貢ぐ」ことを決定している主体はどこでしょうか?介入ひとつを取り上げてみても、前述のように介入の決定権は財務省、実働は日銀です。この両者が数ある見解の相違を乗り越え、「米国へ貢ぐ」という一点においてのみは美しく協調するなんてとても考えにくいのですが、如何でしょうか?
同様に、タスカの言っていることは、どこかに強力で一枚岩の「政府」があって、長期的な視点からぶれの無い陰謀を行っていると考えない限り、支持できません。そしてご存知のように、官僚は縦割りの非効率性を非難されこそすれ、一致団結して何かことにあたる(しかも真の目的を隠しながら!)点において良い評判を確立しているようには見えません。陰謀論のときだけ彼らに高い評価を与えるのは如何なものかと思うわけです。

これに関連して、もしも通産省が強い産業立国日本を育てた(だからエリート達が陰謀を企てることも可能だ)、とお考えでしたら、三輪芳朗氏の本(例えば「日本経済論の誤解」、アマゾンに子母原心氏のレビューがありました)を読まれてみては如何でしょう。非常に読みにくいらしいんですが。

投稿: svnseeds | 2004.02.19 21:40

ども、こんにちは、svnseedsさんの

 >タスカの言っていることは、どこかに強力で一枚岩の「政 府」があって、長期的な視点からぶれの無い陰謀を行ってい ると考えない限り、支持できません。

ということですが、「政府」の意志決定ということではなくて、各省庁や政府有力者が、短期的な保身を優先させた結果
「米国に貢ぐ」ということが行われてきたのではないのでしょうか。
とりあえず、アメリカ政府のゴキゲンを損ねなければだいじょうぶという価値観が存在するように思います。

投稿: らした | 2004.02.20 09:39

svnseedsさん、コメントありがとうございました。重要な指摘なので、本文に前書き注として、svnseedsさんのコメントを読んでいただきたい旨、追記しました。

円介入は迂回されたリフレだろうというのは、れいの「エコミスト・ミシュラン」に示唆があり、それには説得され、いくぶんか本文に反映したつもりでした。が、紹介していただいたCSFBの記事はさらに興味深いものでした。

「米国貢ぐ」については、ご指摘のとおり、陰謀説は成立しないかと思います。この点については、別途論を興したいと思います。端的にいえば、財務省を含め、日本の行政自体がそういうシステムになっているので、自動的に、出力として統制されてしまうのではないか、と。

しかし、昨晩、この件についてさらに考えたのですが、実際問題として、膨大な介入以外に手はないのかもしれません。

投稿: finalvent | 2004.02.20 10:13

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