« 不正アクセスはまずシステム管理者の問題 | トップページ | 漢字は表意文字という話 »

2004.02.12

[書評]神の微笑(芹沢光治良)

 週刊新潮をめくっていて、思わず、うぁっとうめき声を上げてしまった。記事ではない。広告だ。芹沢光治良の「神の微笑」が文庫化されるのだ。

cover
神の微笑
 私は単行本はどしどし文庫になるべきだし、良書は文庫として若い人に提供すべきだと思う。この本だけは文庫にしちゃいけないなんって本は存在しないと…思っていた。が、ある。これだ。「神の微笑」だ。この本は、このまま歴史の彼方に奇書として消えていって欲しかった。でも、文庫で出ちゃたんだ。新潮社、本気か。いわく「芹沢文学の集大成、九十歳から年ごとに書下ろした生命の物語“神”シリーズ、待望の文庫版」。
 世の中に危険な本と呼ばれる本は多いが、本当に危険な本というのは少ない。が、これは、危険物だぞ。知らねぇぞ、俺は、とかいいつつ、こうなっちまったらしかたないだろうと思う。爺ぃファンタジーという独自分野(そんなのあるか)でこのくらい面白い本はない。私はシリーズ全巻読んで、その毒にのたうちまわった。そういう体験も読書のうちだと思う。というわけで、薦める、ことにする(いいのか?) 佐藤愛子みたいなのがちまたに溢れるのかぁ。うー、胃が痛くなる。
 このシリーズは、当時まだ続くのかよ、とはらはらしたものだ。そして、神のお恵みあれ、このシリーズは歴史の彼方に消えていくことになる…と信じた。でも、復刻かぁ。角川書店が文庫にする、大川隆法のしょーもないSFファンタジー+しょぼい人生訓や、阿含教って何よみたいなのはわけが違うのだが、むしろ、そのノリで、この社会から拒絶されることを、祈りたい気分だ。
 ちなみに、芹沢光治良をアマゾンで検索したら、絶版が多い。「人間の運命」すら切れている。と思うに、「人間の運命」の刷り増しが後回しなのかとまた絶句する。ちょっと「はてな」を検索したら、まだキーワードにはなっていないようだ。ほっとする。と同時に、芹沢光治良について説明が必要な時代になったのだなと感慨深い。ありがちな説明を端折るとこんな感じだ。
 明治29年、静岡生れ。第一高等学校から東京帝国大学経済学部を卒業。農商務省辞してフランスのソルボンヌ大学に留学。当地で結核。昭和5年帰国して書いた「ブルジョア」が「改造」に当選。「人間の運命」で、日本芸術院賞、芸術選奨を受賞。フランス政府からコマンドール(文化勲章)を受章。日本ペンクラブ会長、ノーベル文学賞推薦委員。93年死去。
 しかし、これでは、彼と天理教の関係が見えない。彼は天理教の家庭に育った。そして、彼の人生の大半はその信仰から離れていたように見えた。が、がだ。

無信仰な僕が、一生の間に経験した宗教的現象を次々に想い起すと、これらが単なる偶然な経験ではなくて偉大な神のはからいによって経験させられたのであろうかと、自然に考えるようになった―人生九十年、心に求めて得られなかった神が、不思議な声となって、いま私に語りかける…。

 そう、語りかけるのだ。樹木ですらね。これがあの芹沢光治良か。しかし、このシリーズは、本人自身「小説」と言っているように、フィクションでもある。そのあたり、ピンチョンでも読んでいるような幻惑感が漂う。
 芹沢光治良がこのシリーズで描く「中山ミキ」をどう捕らえたらいいのか。それ以前に、現在はすましこんだ天理教の歴史をきちんと近代史のなかで再評価しなくてはいけないだろうとは思う。その異端の運動も含めてだ。この小説は、押さえ込んだ天理教のパワーが新しいかたちで噴出した「異端」でもあろう。が、もはや異端ではすまされはしない。「おふでさき」「みかぐらうた」「おさしづ」これらをきちんと歴史の文脈に戻して、天理教義から独立したかたちで評価しなくてはならないだろう。村上重良の死は早すぎたなと思う。余談だが、東洋文庫の「みかぐらうた・おふでさき」にはCDがあるのか。聞きたいなと思う。私の祖母は半生リュウマチだった。天理教は信じていないが、教師は親切な人で連れられて、お地場に「帰った」ことがある。生涯一度の長旅だったらしい。お手振りもできた。思い出すと泣ける。彼女の人生を天理教が救えたわけでもないし、そんな期待を持つべきでもない。だが、天理教の末端はあの時代に生きていたことは確かだ。そこには、神聖な力があったのだとしか思えない。
 芹沢光治良とこの最後の神シリーズは、「芹沢光治良文学館 第6期」(参照)に詳しい。知らなかったのだが、「天の調べ」の後にまだ遺稿があったのか。しかし、なぁ。読みたいか。
 キューブラー・ロスもそうだが、どうしてこれだけの知性が、最晩年、こういうことになるのか。人間の知性というのはそういうふうに型取るようにできているのか。俺すらも神を賛美して死ぬのだろうか。正宗白鳥みたいに。存在の根幹がふるえるような恐怖だな。

|

« 不正アクセスはまずシステム管理者の問題 | トップページ | 漢字は表意文字という話 »

「書評」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: [書評]神の微笑(芹沢光治良):

« 不正アクセスはまずシステム管理者の問題 | トップページ | 漢字は表意文字という話 »