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2004.02.07

朝日新聞の台湾観、もろ脱力

 朝日新聞社説「台湾総統選――『両岸関係』を凝視する」は、またしてもやってるなという感じだが、脱力したな。書いている本人も多少はわかっているのだろうなとは思う。絶妙なところで端的な歴史認識の誤りを避けている。執筆者は専門家の朱注を反映したのか。それにしても、以下のような文章には溜息が出てしまう。


 国民党の独裁が続いた台湾で、野党が公認されたのはわずか15年前のことだ。

 そりゃ間違いはないよ。ただ、歴史を知る人間はこう言うか。「台湾」が時事上自明になったからこう言えるのだということが、この執筆者にわかっているのだろうか。だが、正確に言えば、未だに表向きは「台湾」というものは存在しない。
 次のような朝日新聞の言いかたは、脱力しつつ、ふざけんなよ、と思う。

 台湾には、内戦に敗れた国民党とともに大陸から来て大陸とのきずなを尊ぶ外省人と、それ以前から住んでいた本省人がいる。両者の対立はなお残るが、いまや台湾生まれが人口の大半を占め、「台湾人」という意識が強まっている。

 なにこいているやら。さて、この文章から高校生は「両者の対立」をどう読み取る? 正解は何も読み取っていけないこと。事実が隠されているからだ。
 事実とは、1947年に起きた台湾の二・二八事件だ。余談だが、戦後史で隠蔽していはいけない事件にはもう一つ、韓国の済州島四・三事件がある。
 二・二八事件について、ちとぐぐったが、意外にプレーンな解説がない。この手の話題は「はてな」のキーワードにもないだろう。と調べるとない。映画関連もないようだ。晒しの意図はないが、ある台湾旅行記らしい記事「7月28日(土) ... これが台湾だったのか…」(参照)が面白かった。

二二八?
 予備校街を抜けてしばらく南下をつづけると、二二八公園に行き着く。二二八というのは台湾の何か歴史的な日付けなんだろうが、今回の旅行は全くの準備不足であっため詳細はわからず。ギリシア風の建物(国立博物館)や中国風の建物が建っている緑の多い美しい公園だ。整備も行き届いている。ただ、この日は雲一つない晴天で、暑かった。木はあるのだけれど、涼し気な木陰は見当たらなかったな。

 ま、それもいいのかもしれない。ただ、その上に今日の朝日新聞社説がのっかる日本っていうのは困ったものだと思う。ついでにこんなのも見つけた。ネットの世界とは不思議なものだ。「台北旅行2日目」(参照)である。

省立博物館と二二八和平公園
省立博物館はギリシャ風で、かつての植民地政府すなわち日本が建てたものである。一方、二二八和平公園の「二二八」とは、戦争が終わりせっかく帝国主義日本から開放されたと思った台湾人(本省人)が、今度は蒋介石の政府(外省人)の手により大弾圧を受けた有名な事件を指している。なぜこの名前が市の中枢部の公園の名前になったのだろう。とにかく、これだけでも台湾の複雑な事情が伺える。

 批判ではない。批判されても困るだろう。が、こういう教育を受けてしまう日本人はちと困るなとは思う。「帝国主義日本から開放されたと思った台湾人」はあの日、惨事の前にどんな唄を歌って凱旋していたか、もはや語られないのだろう。♪天に代わりて不義を討つ 忠勇無双のわが兵は…右翼・戦争賛美の歌ということなのだろうから。
cover
わが青春の台湾
わが青春の香港
 ついでに中華民国公式サイトに「二二八事件五十四周年記念式典開催」(参照)があった。当然と言えば当然だが。ついでだが「なぜ今、『台湾青年』をやめるのか?」(参照)には泣けるものがあるな。こう言ってはなんだが、みんな歳をとったのだ。
 この時代が日本にどう関わっているか、邱永漢の最高作「わが青春の台湾 わが青春の香港」を薦めたいが、絶版らしい。今となっては中央公論で出したのが不運だっか。しかし、他の選択もなかっただろう(参照)。こういう本を刷らないでなにが出版社だと思う。

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コメント

え~と、例の小林よしのり「台湾論」で、結構若い連中の方がおやぢ(50以上)より詳しくなってるかもとか思ってます。近郊(西武の本社あるとこ)のゴク普通の本屋でも積んであって簡単に手に入りましたものです。例のおバカ高校の地元でもそうでしたからですねw ですからこの程度の朝日の記事は自爆もんか馬脚もんかもしれませんよ。そう言えば金美麗さんのご主人は、東大大学院生時代に「台湾青年」に寄稿してたとか、何かの本で見たような気がします。

投稿: shibu | 2004.02.07 15:49

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