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2004.02.05

アメリカという国

 朝日新聞社説「大統領選――『二つの米国』でいいか」は朝日新聞らしいつまらない社説だった。緩和に書かれているが毎度のサヨク・反米というだけのことだ。ちょっと引用しておく。


 指名争いの決着はまだ先だ。しかし、分裂よりも統合を大事にする民主党候補の政策に支持が広がれば、それを取り込む形でブッシュ陣営の政策にも変化が起きるかも知れない。誰が大統領に選ばれようと、そうした方向への展開なら大歓迎である。

 なぜ、ケリーを望むと言わないのか、そのあたりの朝日の毎度の啓蒙韜晦に辟易とする。ケリーを望むと言えば、責任が生じるからだろう。俺はこういう朝日みたいに曖昧なやつは嫌いだな、というのは日常の感覚だが、それもさておく。ようは、朝日のいう「統合」とやらが何か、だが前段はこうだ。

1980年代の「レーガン保守革命」が終わった後、無党派層や、共和、民主両党の穏健派を引きつけるための中道路線が政権獲得の鍵とされた時代が続いた。90年代のクリントン大統領がその典型だ。ところが、いまの米国は右と左、富む人と貧しい人の距離が離れすぎてしまった。選挙の構図もかつてのようになりにくい。ケリー氏もブッシュ政権に対して、大企業寄りの姿勢や利益誘導をあげて激しく批判する。

「右と左」が何を言っているのか曖昧だが、保守(右)とリベラル(左)くらいの意味だろう。もうひとつの分断は貧富の差だ。そして、それを招いたのがレーガノミックスだと言いたいわけだ。ソ連を倒したレーガン憎しというお笑いか。
 保守かリベラルかというのはアメリカ政治のダイナミズムであり、あの国の二大政党の基盤だ。それを統合というのはプロ独裁くらいしかありえないのだから、これも朝日の馬鹿話にすぎない。
cover
クルーグマン教授の
経済入門
 問題は貧富の差だ。これは問題ではある。だが、ちょっと待て、米国の現在の問題は貧富の差に還元されるのか。あれ、それってサヨク丸出しじゃないの、とも思う。もちろん、米国の貧富の差は大きな問題だし、意外にこれは近年の問題でもある。文庫になって最新の山形浩生の注が加筆された「クルーグマン教授の経済入門」の指摘は参考になる。クルーグマンが結果的にブッシュ攻撃をしている背景にはこの米国社会の経済学的な病理への懸念もあるのだろう。いずれにせよ、朝日のいうような古いサヨクの歌で心情をときめかす問題ではない。
 今回の民主党の動向を見ていて、民主党の提灯持ちであるニューズウィークの動向でもそうなのだが、私は本命はディーンかなと思っていた。しかし、あれを見て、ブッシュより馬鹿じゃん、とアメリカ人もさすがに思ったのだろう。極東ブログではアホ・デブ・マッチョが米人のという枕詞だが(日本はイジケ・ヒンソー・インシツか?)、アメリカというのは強い健全性というか、正直なところ脱帽するほどの正義と謙遜(modesty)の国だと思う。まぁ、多面ではあるが。
 ちょっとおおざっぱすぎるが、言語や倫理というのは、一般的に伝搬の僻地にいくほど古層を残存する。現代沖縄が大正時代を保持しているような感じだ(そうなのだ)。同じく、米国の田舎は古層のイギリスに近い気がする。機関車トーマスとか読んでいると、実に面白い。映像になってしまったし、続編あたりからおかしくなってしまったが、あれはけっこうお子様ものではない。共産主義は危険だという思想まで含まれている。いずれにせよ、トーマスのテーマは傲慢にならないこと、である。あれが米国の田舎の、ある古層の倫理なのだと思う。現地を見た人は、まさかという批判もあるだろうが。
 私はディーンはわらかないでもない。ケリーはわからない。しかし、ケリーを支持する民主党の層はわからなくもない。ある意味、共和党より古層の雰囲気を感じる。
 もうちょっと言おう。私はアメリカの古層の倫理と家族主義がとても好きだ。なぜだろうと思うに、子供時代に米国のファミリードラマをしこたま見たせいかもしれない。題名は覚えてないが、子連れ再婚のドラマだったが、その子連れが双方に3人ずつ。男3、女3というのがあった。もちろん、そうすることで脚本にダイナミズムが出る。ディテールは忘れたが、ああいう家族主義は米国の古層のイメージに近いものだと思う。ニューヨークパパというドラマはけっこう人生観に深く残った。ちょっとかっこいい、しかも金持ちの一人暮らし、しかも召使いがいる。そこに両親をなくした幼い兄弟をひきとってパパになるという話だ。けっこう人情ものだったのだが、特に、パバロッティにちと似た召使いことフレンチさんがよかった。
 この手の話はネットにあるはずと、ぐぐるとある(参照)。1966年? そんなに古いか。原題はThe Family Affairというらしい。ちょっと洒落ている。ちなみに「奥様は魔女」の原題はBewitched(参照)。高校生ならこの原題の洒落、調べておけよ、と塾の講師のようなことを言っておく。The Family Affairも洒落だが、こちらは今の高校生ではわからないだろう。
 ニューヨークパパの幼い子供役は私より少し年下くらいか。だいたい私と同世代の米国中流階級はああいう環境で育ったのだろうなと思う。ヒップの世代より下で、保守への揺り戻しがあったのかもしれない。
 話がまた回顧モードに入ってしまったが、私より上の世代の日本の親米政治家には、これに類した米国への親和感があると思う。あるいは、私より上でも団塊あたりのエリート層はなんであれベトナム戦争の傷があるだろうからその上の世代になるか。アフガン・イラクで陣頭に出てきた池澤夏樹は私は一回り上だが、そのあたりまでの層から上だろうか。ちなみに、池澤も古層にはこの親米性があるのは芥川賞受賞前の仕事を見ているとわかるだろう。
 日本を理解するうで、戦後のこの米国メディアが残したある種の親米基盤みたいなのは、うまく論じられていないような気がする。私からすれば、福田和也がなんかシュールな菊池寛のシミュラクルに見えたり、坪内祐三がなんか疑似レトロに見えるのはそんな感じだろう。しかし、実際の戦後は例の団鬼六が英語教師でカーボーイものに心酔していたように、昭和後期の右傾化や日本的なるものは、ある種のキッチュなのだ。さらにこのキッチュがねじれて白洲次郎などが今頃メディアに出てくるが、あれはただの帰国子女というか中身はただの外人だ。
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私は英雄じゃない
ジェシカ・リンチのイラク戦争
 話が散漫になったが、団塊世代より下の日本人にとって、アメリカという国はどういうイメージなっているのだろうかと思う。確かに留学生や長期滞在者は増えた。しかし、アメリカという国がその歴史の厚みを持って見えているのだろうか。まさか古賀潤一郎みたいな馬鹿ばかり、そんなことはないと思うのだが、あまりアメリカを舐めていいわけはない。日本人のなかから、ジェシカ・リンチが現れるか?と問うてみるがいい。任意の米人からあの正義とオネスティ(honesty)が出現するのだ。アメリカの本当の強さはそこにあるのだ。

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コメント

アメリカ。とにかく知らないことが多すぎです。
外地なのではっきりとはわからないのですが、多分3年前、紀ノ国屋の憲法コーナーで変わった本見つけて、夢中で読んだりしました。ひぇ~ですよ、読後感。んなこと、宮澤にも清宮にも佐藤に芦部に小林、樋口、橋本...ぜぇ~んぜん出てなかったぜぇ~ですよぉ(泣きw)英米法もやったつもりだったのに、そえば不法行為と契約しかやらんかったかもw でも本が無かったじゃんかってな文句は言いたい。
で、フェデラリストと憲法義解を読めとか言われても今どうやって手に入れるの?ハミルトンがクローズアップされてるんですが、47歳で決闘で死んでるんです。かっちょえぇ~程度のおやぢっすw サウスカロライナのおばんとのPMで知ったかぶってハミルトンがぁとか書いたら、こっちじゃ小学生から習ってるわよってさ。大日本帝国憲法(旧憲法)の啓蒙書が随分下の世代から出るし、死ぬまでに再学習なんて可能なのかいなってな暗澹たる気分になりました。そういうの身軽にできると思ったから自営業選んだつもりだったのに...

投稿: shibu | 2004.02.05 15:38

ども。憲法学は懐かしい。佐藤功、小林直樹とかでしたよ、私の20年前。ラスキとかもちょっと影響受けたりしました。最近では、日本国憲法ってどうやってできたのか、気になっています。あれって、連邦法なんですよ。nationとstates使い分けている。憲法学者でその指摘している人を知りません。当方の勉強不足でもあるんですが。折に触れて再学習とかできるか? 関係ないけど、自分について言えば、死ぬまでにドストエフスキー読み直せるかなとか思いますね。

投稿: finalvent | 2004.02.05 16:55

え・と、
憲法懐かし話中に失礼しますが、

やっぱちょっと気になるので・・


ぼくも概ね極東さんと同じようなアメリカ観というか・・
とりあえず、田舎の一部のところにあるような誠実さとか、そういう感じは好きです。

でも・・これって政策レベルに反映されるんですか?
もしくは反映されたことってあるんでしょうか?

投稿: m_um_u | 2004.02.05 17:27

m_um_uさん、ども。えっと、私としては、「よくわかんない」です。アメリカ人はけっこうカーターで懲りているようだし。それと、米国の政策っていうのはかなりロビーですね。あれでどうして民主主義といえるのかよくわからないです(日本もか)。

投稿: finalvent | 2004.02.05 20:02

あ・にゃるほど・・

(くだまいてすいません)

あと、ロビー=民主主義のマインドコントロールに成功してるんでしょうかね?

というか・・・(いや黒くなるから言うまい)

投稿: m_um_u | 2004.02.05 20:31

僻地に言語と倫理の古層が残存する、というのは、確かにそうだな、と思います。

日本がユーラシア大陸から切り離された僻地だから、仏教にしても、漢字の発音にしても、唐の長安で流行していたり、唐の長安で用いられていたりしたものが面影を残しながら日本に残存しているわけです。

その日本で僻地になってしまった宮城県北部や岩手県の海岸部には、「オガミン」とか「オカミサン」と呼ばれる女性のシャーマンがいるそうで、たいていは天台系修験道の行者さんがご主人で、たいていは「オガミン」や「オカミサン」が信仰を集めていて、ご主人は「オガミン」や「オカミサン」に徒食させてもらって宗教生活を送れていることが多いそうです。仏教渡来以前の原始日本のおおらかな宗教観と宗教生活というのはこんなものだったのかもしれません。

アメリカの東海岸の田舎町に行けば、まだ、ジェファーソンやハミルトンやマディソンのアメリカが残存しているのか?アメリカ国内のヨーロッパ的要素というと、アングロサクソン中心で、ラテン的要素はスペインーメキシコ的なものが劣位に組み込まれきれずにいて、フランス、ドイツ、オランダ、ロシアの文化の美点や美風には興味本位な関心はあっても存外無頓着だったような気がします。イスラムに対しては無理解をほとんど改めようともしない頑固さがあるような気もします。

日本の場合には、大きな暖流と寒流の潮目があって、照葉樹林と落葉広葉樹林の山々に恵まれたおかげで世界最先端の狩猟採集社会を生み出せた後、夏の高温と降水量に恵まれた温帯モンスーン気候なおかげで広く水稲栽培ができたために世界最先端の農業社会を育てられて、その後、鉱物資源が豊富で、中国の製造業に長い間依存できたおかげで金融業と流通業が非常に発展できたために欧米の市場経済も理解の範疇にあったし、国民の民度も高かったので産業革命も受容できて、それから世界最先端の工業社会の創出に成功できたのだけれど、今度の情報化社会だけはまだ未知だから世界最先端の情報化社会の成立に成功できるかどうかはわかりません。アメリカもヨーロッパも同じ。どっちも、世界最先端の情報化社会を創出できるかはわかりません。

ただ、この間ルーブル美術館展を見て思ったのだけれど、フランスにはエジプトやオリエントやエトルリアの遺品がたくさんあって、こういうのもフランスの層の厚い文化力を構成しているのだとは思います。そういうものは、大英博物館にもエルミタージュ美術館にもたくさんあるはずで、ようは、そういうものが情報化社会の重要な知的美的倫理的資源であることに優れた政治家が気づけるか気づけないかが肝心なところで、そういう資源を優れた情報化社会を築くためにヨーロッパ諸国が効果的な活用をし始めれば、ヨーロッパの復権も十分にありそうだとは思っています。こういうものは、ヨーロッパには豊富で、アメリカには比較的貧弱なもの。

投稿: enneagram | 2009.04.06 10:44

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