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2004.02.29

aとtheの話

 英語の冠詞(article)、aとtheについて書く。といっても、あまり正当な説明ではない。雑談だ。その程度の話として受け取ってほしい。
 で、のっけから余談。私は一応高校英語の教師の資格を持っている。が、専門学校で初等数学の講師はしたことはあっても、バイトの家庭教師を除けば、英語なんか教えたことはない。英語はからっきし苦手。だがイェスペルセン(Otto Jespersen)の文法はよく勉強したほうだろう。高校で学んだ英文法がどうも嘘なんじゃないかと思っていたからだ。イェスペルセンの文法はその点、なかなか独創的なしろもので、いろいろ腑に落ちた。初期生成文法のネタもイェスペルセン文法の焼き直しのようだった。
 テーマのaとtheの使い分けだが、これは、OOP(Object Oriented Programming)で言うと、aがクラス(class)でtheがインスタンス(instance)だ。Flashだと、aがシンボル(symbol)。説明になってない? ちょっと違う面もある。が、とりあえず冠詞なしのdogがクラスに近い。
 このdogクラスからできたa dogや複数形のdogsがインスタンスともいえるのだが、インスタンスはID(identification)管理するから、できるのはa dogとかじゃなくて、「ハチ公」とか「ポチ」とかだ。名前が付いている。こいつらがthe dogである。theが付くのがインスタンスだ。
 HTMLだと、クラスからの継承(inheritance)という関係ではないのだが、aはclass指定、theはid指定に近い感じ。また、余談だが、HTML要素の属性であるclassやidはCSS(Cascading Style Sheet)のためにあるのではなく、あくまでHTMLの論理構造指定の補足のため。よく「論理構造はHTMLで指定し、見栄えはCSSで指定せよ」と言われる。が、CSSのためにclass指定やid指定するのは本来なら邪道じゃないか? でも、そういう指摘はあまり見かけない。もっとも論理構造とか言うならHTMLではなく最初からXMLとCSSを使えばいい。が、歴史的な背景からHTMLやHTMLからできたXHTMLを使っている。理想なんかより、歴史的な理由があるのというのが現実というものだ。
 話を戻す。aとtheの違いは、aはクラス的なものを示すのに対して、theはIDに対応している。っていうことは、「theが付く名詞には固有名が付くのだけど、それがわかんないから、仮にtheを付けておくよ~ん」という含みがある。

cover
Essentials of
English Grammar
 I met the man.というとき、the manには「ゴルゴ13」とかいう名前があるのだが、私はその名前を聞いてなかったということだ。the dogには「ハチ公」とか「ポチ」とかいう名前がある。スターウォーズで、the forceというものも「理力」というよりか、なにか古代には名前がある力だったのだろう。オリハルコンとか。いや、これは金属名だから、the metalだな。Alexandar the Greatは、「偉大なるものその名はアレキザンダー」という含みなのだろう。Winny the Poohはよくわからないが。
 以上でaとtheの説明終わり。で、いいのかぁ? 雑談だからね。でも、前振りのイェスペルセンはなんと言っているか(Essentials)。

The chief use of the article is to indicate the person or thing that at the moment is uppermost in the mind of the speaker and presumably in that of the hearer too. Thus it recalls what has just been mentioned.

 と、既知情報の有無という点で、フィルモア(Charles Fillmore)みたいなことを先に言っていたわけだ。が、イェスペルセンの場合は、もっとコミュニケーション・モデルだ。つまり、二者間で共有される情報としてリファーされる対象がtheというわけだ。文章語だと、「読者もご存じ(as you know)」という感じか。もっと単純にこうも言っている。

The may be considered a weakened that.

 このあたりは、イェスペルセンお得意の歴史考察があるかな。単純というより、ちょっと曖昧な言い方でもある。ソーシュール以前の言語学の雰囲気がある。つまり、説明に経時の概念が混在してしまっているのだ。ソーシュール言語学の偉大さはこんなところにもある。
 イェスペルセンという人はけっこう面白い人で、母語はデンマーク語だ。エスペラントみたいな人造言語も作っている。デンマーク語はおそらく英語の祖語に近いせいもあり、その分、いろいろなインサイト(直感)も働くのだろう。この感じは沖縄語と大和古語の関係に近いかもしれない。そんな感じを伺わせる記述もある。

The article is used more sparingly in English than in may other languages; it is used chiefly when the word without it would not be easily understood as sufficiently specialized. There is therefore a strong tendency to do without. Example are father, mother, baby uncle, nurse, cook and other names of persons in familiar intercourse; further, names of meals:

  Breakfast is at eight.
  He came immediately after lunch.
  I am afraid we shall be late for dinner.

 But the article is necessary in speaking of the quality of a specified meal;

  The dinner last Sunday was very frugal one.


 改めて読み返して、ほぉとか思ってしまった。他の西洋の言語に比べて定冠詞が省略されやすいのかぁ、である。ネイティブと話していて、aとtheの使い分けに、どうも変なイレギュラーな感じがするのもそのあたりの、省略の感じなのかもしれない。研究社の辞書などには単純なものだ。

U[修飾語を伴い種類をいう時にはC]

 とあるのだが、イェスペルセンの説明のほうが面白い。そういえば、「クラウン英和」を作った河村重治郎先生は、CountableだのUncountableというのを嫌っていたなと思い出す。立派な先生でした。ああいう人は現代にはいないだろうな。
 ってな話をしていると不用意にだらだらするのだが、たらっとイェスペルセンの説明を読み直していて、も一つ、ほぉだったのは、New Yorkにtheは付かないが、Dover Roadにはthe Dover Roadとtheが付くのは、固有名というよりDover行きの道という意味合いが強いのだろうとの説明だ。なるほどねである。Dover Roadはクラスでthe Dover Roadはインスタンスなのだろうな。英語ってのは、冠詞の面で、ちょっと変な言語でもあるな。

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「雑記」カテゴリの記事

コメント

雑談に喰いついてみます。

> テーマのaとtheの使い分けだが、これは、OOP(Object Oriented Programming)で言うと、aがクラス(class)でtheがインスタンス(instance) だ

なるほど、こういう切り方もあるんですね… 。でも「aがclass」は分かりますが、「theがinstance」はチョト乱暴かと。インスタンスはいくつでも生成できますから。

一方で、

> 他の西洋の言語に比べて定 冠詞が省略されやすいのかぁ、である。

あんまり考えたことが無かったのですが、やはりそうだったのですか…(当方、西洋の言語は仏語を齧った程度)。仏語はしつこいほど冠詞を決定させる必要のある言語でした。

投稿: Dain | 2004.02.29 22:20

冗談になってますか?
省略も含めて、冠詞には苦労してます。主題卓越言語(中国語圏?)とは相性が悪いのでしょうか。

投稿: the watcher | 2004.03.01 07:53

Dainさん、the watcherさん、ども。この記事は多分に洒落です。補足すると、a dogもthe dogもdogsもインスタンスです。dogがクラスです。the dogはID管理されている場合としたほうが正確でした。

構造主義言語学をちょっと無理に押し詰めると、冠詞なしのdogは形容詞、つまり、性質だけを持つもの、コンストラクタですね。

いずれにせよ、こういう認識の基底が西洋人の言語にはありそうです、という洒落です。

ただ、ブログ書いて、懐かしのイェスペルセンの文法を読むと、英語っていうのはけっこう特殊な言語だなと思いました。

投稿: finalvent | 2004.03.01 09:20

なかなか楽しい切り口でした。意外な説明の仕方ができるもんですね。

投稿: らした | 2004.03.01 16:02

ラテン語初心者のひできです。

一応、西欧の言葉のおじいさんくらいの位置にあるラテン語には、冠詞ってないんですよね。不思議です。

「てにをは」も、助動詞であらわすのでなく、名詞の格変化(語幹+語尾)であらわされます。かなりいろいろなことを明確にあらわせる言語システムだと感じました。こういう合理的なシステムが時代を経るにしたがって、なくなってしまい、冠詞というどうしても非ネイティブには理解しがたいものが加わるというのも、もっと不思議に感じます。

投稿: ひでき | 2004.03.01 23:38

ひできさん、こんにちは。冠詞というのはわからないという面と、それでもそれなりにこの変な印欧語に馴染んでいると、その感覚のようなものは移ってきて、それも変な感じです。

古典ラテン語には双数って残っていましたっけ。物騒な言い方をすると、古典ラテンゴはある意味人造言語だから、古ギリシア語を写しているかもしれませんね。

投稿: finalvent | 2004.03.02 09:28

はい、双数ってギリシア語にはあるそうですが、ラテン語にはありません。文法的には、ギリシア語と比べるとはるかにラテン語は簡単なようです。私には、とても高度で自信をもってご返答できないのですが、修辞的な面や、語彙などを、かなりギリシア語から持ってきているようです。ラテン語の起源についてもっとしらべてみなければなりませんね。

余談もいいところですが、一度、ギリシア語とラテン語で書かれた羊皮紙の本を語学の専門の方にみせていただきましたが、ぜんぜん読めませんでした。

投稿: ひでき | 2004.03.03 19:44

ひできさん、ども。ギリシア語ですが、けっこう現地の古代遺跡とか読めるものです。変な感じがしました。ひできさんは、イタリアとか行かれたことはありますか。けっこう読めるんじゃないでしょうか。

投稿: finalvent | 2004.03.03 20:55

あ、いまごろなんですが、ヨーロッパ諸語の冠詞はギリシア語からだそうです。ギリシア語の冠詞は、格、男性・女性・中世、単数・複数に変化するそうです。冠詞自体がギリシア語において発生したものらしいですね。ついでにいうと、途中からギリシア語においても双数は喪失されてしまったようです。

ちなみに、本日「ケンブリッジ ラテン語講座」(関野 清二編訳)がアマゾンの関連の古本屋さんからとどきました。800ページを越す大著です。関野先生の息子さんに先日たまたまお会いしてお話を聞いてついつい自分の能力を超えていることはわかっていながら、買い求めてしまいました。はたして、私の一生の内で読み終わるのやら...

投稿: ひでき | 2004.03.12 13:10

ひできさん、ども。あ、そうなんですか、というのは、中世から近世の印欧語っていうのは、どうも古典からの疑似言語臭いかもとか理解しました。印欧祖語に近いサンスクリットで冠詞があったっけ?忘れました。ギリシア語については、私は古典、コイネと少し勉強したので、少し知っています。聖書とか決まったテキストなら、少し読めます。

投稿: finalvent | 2004.03.12 13:44

細かいことですが、イェスペルセンはデンマーク人ですので、母語はデンマーク語です。
デンマーク語は(オランダ語ほどではありませんが、それでも)英語にかなり近い言葉です。

それから、イェスペルセンが作った人工語ですが、ノヴィアール(Novial)というもので、1928年に発表されています。
現在でもネット上に、ノヴィアールに関するサイトがあったりします。
http://www.geocities.com/Athens/Forum/5037/novial.html

投稿: 通りすがり | 2005.09.12 11:51

通りすがりさん、こんにちは。イェスペルセンの母語については勘違いしていましたので修正しました。ご指摘ありがとうございました。これをもって修正歴に代えます。

投稿: finalvent | 2005.09.12 15:23

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aは「ある」と読んでみると自然。 a dog barked:ある犬が吠えた、街中であうーっていう一匹の犬の鳴き声が聞こえる感じ。 ついでに”dogs barked”なら、街中で犬どもがあうーあうーって鳴きあってる雰囲気。 theは「その」「あの」と読んでみると自然。 the dog barked:そ... [続きを読む]

受信: 2007.12.06 17:02

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