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2004.01.10

[書評]「結婚の条件」小倉千加子

cover 酒井順子の「負け犬の遠吠え」を買うつもりで買いそびれた。どこにも在庫がない。すごい事態だと思う。「バカの壁」がいくら売れてもあんなの本じゃないんでどうでもいいことだが、こっちの在庫切れには呆れる。余談だが、岸本葉子のがんの本も売れている。出版は不況だ、いい本が売れないというのは本当なのかと思う。いずれにせよ、代わりに小倉千加子の「結婚の条件」(朝日新聞社)を読んだ。AERA臭そうで期待していなかったのだが、面白かった。痛快でもある。
 けして難しい本ではないのだが、この本がつまるところ何を言いたいのかは、わかりづらい、と思った。表層的なメッセージは帯にもあるように「青年よ、大志を捨てて、結婚しよう」だが、ようは「30過ぎのお嬢さんたち、自分のカオを値踏みして、相応の稼ぎの男と結婚しなさい」ということだ。まぁ、そう帯には書けない。表紙もしょーもないデザインになっている。だが、本書のメッセージは私には多層的で難しいといえば難しいものだった。著者のスタンス自体にある種の錯乱があるのかもしれない。
 小倉千加子という人は、私は知らなかったのだが、痛快なおばはんである。数年引きこもっていたとあるが、そうなのだろうと思う。もちろん明晰な人だが、それ以上によく人を愛する人なのだろうと思う。まさにおばはんである。彼女自身、未婚の人生のようだが、それを補うだけ慕われて生きてきた人ではないか。奇妙な話をするようだが、本書の深層からにじむ、小倉千加子ってええ人やな、のじんわり力が本書の本質かもしれない。
 日本のフェミニズムというのは、あえていうが意図的に戦略的に迷路になっている。そこに知性が舞い込めないようにして、フェミニスト商売屋が安定するようなシカケだ。誰も読めもしねーようなデリダ論を書いて、青二才に本を売っているといった日本らしい光景にも似ているが、デリダ論など日本社会に無意味である(もちろん無意味であってよい)のに対して、本来ならフェミニズムは社会が要請するものだ。私は端的な例で言えば、中絶問題にきちんと社会性のある議論を提示せよと思うだが、フェミニストからはなにも出てこない。日本のフェミニストは、緩和な内ゲバなのか、結果的なセクトなのか、社会へは声が出てこない。低容量ピルやOTC化されるモーニングアフターなど、どういうふうに社会的に考えるべきなのか、何か言えよと思う。と言いつつ、それもこの本のテーマでもない。
 「結婚の条件」の内容には、取り立てて衝撃なことはない。ほぉ、素面でそこまで言えるかというか、おばはんだから言えるかぁといった程度の内容ではある。ただ、一点だけ、気になるのは、少子化は日独伊の問題とするあたりはジョークにしてはすまされないような気もする。が、米国などでも白人の統計だけ見れば、日本と同様なので、ようは敗戦国の男の問題ではなく、国家を多民族多文化に開くのに日独伊がびびってしまったということだけだろう。これと限らず、社会学的な問題分析の視点は小倉には弱いのだが、それはこの本の欠点でもない。
 毎度極東ブログの書評は役にもたたないのだが、なぜ、女たちが結婚しないか、は、冗談のようだが、マクロ経済学の応用でかなり解けるのではないか。女自身の自分のカオの評価点、男による女のカオの評価点、男の収入、親の収入といったせいぜい4パラメータの式でまとまるような気がする。そして結婚とはその式のカタストロフとして表現できそうな気がするのだが、あるいは、カタストロフはそのパラメーター外の要因なのだろうか。いずれにせよ、そういう学が成立しそうな気はする。それほど、なんというか、結婚とはレギュラーな問題に思えるのだが。くどいが、世の中の人は少子化は複雑な問題だと言っているが、実は、単純に経済学的な問題ではないのか。
 小倉と限らず、他の社会学者からも指摘されつつあるが、日本はすでに階級社会になりつつある。小倉は、結婚といっても階級ごとに意味が違うぞ、というのだが、それ自体はそれほど特記するほどのことでもない。そして、その階級は、学歴に比例しているとも言うのだが、それもたいしたことではない。私は、むしろ、高卒、短大、四大といったわかりやすい学歴はすでに崩壊して、四大間の差異になっていることが問題だと思う。
 極東ブログのまたぞろの話になるのだが、共通一次試験以降の世代では、学歴が数値で一元化されている。もともと日本の大学など入試の難易度しか事実上差異はないからしかたがないのだが、そうすることで、ようはどこの大学を出たかというだけの擬似的な階級ができつつある。ただ、それでも実社会というのは小利口じゃつとまらないから、そうした共通一次試験的な序列は的確に収入及び収入見込みに反映しない。というあたりのズレで、若い男の死ぬほど勘違い内面タカビーも無視できない程度には存在している。と言ったものの、そうしたズレは誤差だろうか。書きながら逡巡してもしかたがないが、誤差とも言えないだろう。優秀な官僚ほど辞めていくという傾向はあるし、会社社会は大学のように序列化できていない。どうも、話がずれたが、ようは男の側でも勘違いが結婚を遠ざけているだろうということだ。
 話は散漫だが、本書で喝采を送りたいのは、男が育児参加などできるのは、公務員や教師など非生産部門に限定される、それは事実だ、としたあたりだ。そうだと思う。公務員つまり官僚や教師つまり大学のセンセーみたいのが、こうした件に口を挟むのは、雑音だからやめてくれと思う。おめーさんたち、うぜーんだよである。
 じゃ、どうしたらいいのか。身近な女性にこの話をしてみた。私は「別に今の女性たちは結婚なんかしなくてもいいんじゃないのか?」と訊く。答えは「でも彼女たちは結婚したいよ」である。そうか。でも、なぜ結婚したいかというと、女の勝ち組になりたいからというだけじゃないのか、と思う。そう訊くことは、男の私にはできないので沈黙する。
 VeryだのStoryだの、貧乏くさい雑誌である。知性というのはフラワーアレンジングでも紅茶コーディネータでもない。消費の欲望とは知性の恥だ。もちろん、そんなこと言っても通じない。知性のないものに知性は通じない。むこうもそんなものである。バカの壁である。ああ、バカな女が多いな、あんなもの勝ち組でもなんでもないよ、と言うことが可能なら、こうした問題は瓦解する。そうさせる社会要因が発生することもありうる。
 だが、そうはならない。そういうものなのだ。それは社会の安定性に従属するのだ。他人の生き方なんか私には関係ない、関係ありえようもないという境遇は悲惨でもあるが、それが自分の生き様かと腹をくくることは、万人に迫れるものではない。結婚とは選択ではなくて、人生そのものなのだがと呟きたいが、やめる。爺臭いし、各人ご勝手にである。
 追記である。ふと考え直したが、ようは大衆とは弱者である。結婚とは弱者の互助でもある。結婚せーよ、というのは、だから小倉は100%正しいのではないか。いいおばはんであると、あらためて思う。

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「書評」カテゴリの記事

コメント

これ、面白いですね p(^-^)q

> でも、なぜ結婚したいかというと、女の勝ち組になりたいからというだけじゃないのか、と思う。そう訊くことは、男の私にはできないので沈黙する

なんか・・
極東さん聞けないみたいだから・・

こんどぼく聞いてみましょうか?(^^;)


あ、
信頼関係できてるので、聞けるんです。


あと、
こういう話って「結婚行進曲」(小島麻由美)みたいですね(笑)

投稿: m_um_u | 2004.01.10 14:28

ども。ええ、代わりに訊いてみてください。いい関係のかたがいてうらやましいですね。

投稿: finalvent | 2004.01.10 14:53

てへ (*^^*)

じゃ、こんど、月曜ぐらいに聞いときま~す

投稿: m_um_u | 2004.01.10 15:16

この記事を読んで「結婚の条件」が読みたくなりました。本日、購入。読み終わったら感想を書きます。紹介ありがとうございます。

投稿: sero | 2004.01.12 20:03

どもです。読まれたら、コメント、いやトラックバック、なにかください。「金返せぇ」だったりして。

投稿: finalvent | 2004.01.13 09:04

聞いてきました

>じゃ、どうしたらいいのか。身近な女性にこの話をしてみた。私は「別に今の女性たちは結婚なんかしなくてもいいんじゃないのか?」と訊く。答えは「でも彼女たちは結婚したいよ」である。そうか。でも、なぜ結婚したいかというと、女の勝ち組になりたいからというだけじゃないのか、と思う。そう訊くことは、男の私にはできないので沈黙する

ってことだったんですが、

なんか・・

それほど打算的ってわけでもないみたいです

「結婚っていうよりも・・子供は産みたい。結果として結婚はするかもしれないけど・・別姓がいい」って感じでした。

でも、
ぼくの周りに人たちは一般的ではないかもしれないので・・
(たぶん)

ほかの結婚のケースを聞くと、

「何年か付き合ってて、“そろそろ、ま、いっか”、って感じで結婚するひとは多い(周りの2ケースはそんな感じ)」

って感じでした。

でも、それが打算かっていうと・・・

・・びみょー・・?

経済的なバックアップを狙ってっていうか・・なんか・・「ま、いっか」って感じらしいです


投稿: m_um_u | 2004.01.13 13:18

m_um_uさん、ども。ほぉ~っていう感じです。フィールドワーク、thanxです。「ま、いっか」に説得力がありますね。別姓がいいというのもよくわかります。公務員でなければけっこう大丈夫な世界になってきているみたいですが(銀行はダメ)。

投稿: finalvent | 2004.01.13 14:58

たいへんおもしろく読ませていただきました。...非生産部門にいる者で、恐縮ですが。でも大所高所からあさってな政策を持ち出すような仕事はしてません!

私も結婚は経済学的にレギュラーな話だと思います。選好とか効用とかでかなり話せるし、じっさい経済学者はそういう研究をしてますよね。今は、自分のカオのレベルは見極めついても、効用をてんびんにかけると「それなり君」とくっつく気にはならない、そんな人が多いのかしら。

投稿: mito | 2004.01.15 00:03

どもです。非生産部門なら嫁に行けぇとか言いませんからぁとブラックな切り出しでごめん。あさってな政策もですね、ごにょごにょ。

先日の追記に書いたけど、小倉は基本的に経済弱者の福祉として結婚の制度を見ているように思います。し、それは重要な視点かなと、ただ、そういう理解でいいのか、そう読まれていいのかは異論があるだろうとは思います。

個別のトランザクションというかで見ると「それなり君」という標準化ができるし、昔も男なんか「それなり君」ばかり、むしろ今のほうが水準は上がっている…のに、現実からサンプリングすると「それなり君」はどれも、あれ?という感じではないかと、と、と、私は思うのです。無駄話が多くなりましたが、関連して酒井順子「負け犬の遠吠え」も読んだので、その話も近く書きます。が、基本は、現状の未婚化を問題視すること自体止めていいのではないかと思いつつあります。

投稿: finalvent | 2004.01.15 11:05

私も、偶然昨日、本屋でこの本買いました。
この小倉千加子という人を全然知らなかったのも一緒です。
そして感想もほとんど同じです。できることなら、
この記事を私のブログにトラックバックしたいくらいです。

投稿: ナナ公 | 2007.01.17 15:49

小倉千加子さん。私が短大の時に専攻していた女性学の先生でした。こんなに本を執筆してるとは。。。知りませんでした。いつも納得、感心する授業ばかりでとても楽しかったです。めちゃいい人ですよ。おもろいし。

投稿: ますみ | 2008.10.21 16:26

小倉先生の本にはよく教え子の学生さんの話が出てくるのに、学生さんの方は先生のことあんまり知らないものなんですね...

投稿: えむ | 2009.06.20 09:50

小倉千加子氏は既婚者のようですよ。
上野千鶴子との対談本で上野氏に指摘されてました。

小倉氏の温かいまなざしで読後に励まされ感がありました。

投稿: | 2009.12.08 10:24

ごめんなさい。
先ほど投稿した、小倉氏既婚、わたしのまちがいだったようです。申し訳ありません。
削除ください。

投稿: | 2009.12.08 10:39

げ。これ、「これ以上、負け組になりたくなかったら、負けを認めて、中流になりなさい」って事だよね?げげげのげ。・・・私だったら、「Stolyは貧乏くさい」で済ましたいところだけどなぁ。だって、高校の同窓会、貧乏くさいもんなぁ。けど、今それよりさらに貧乏で、ファミレスでドリンクバー注文してる自分がいるもんなぁ。(とほほ。)林真理子の偉大さ(作家としてはぺけだと思うけど)が、ようやく最近分かって来たぞ。全員が、ああはなれません、という啓蒙の書なんですね。(@_@。でも、多分読まない。きっと読まない。これ、買う金があったら、ヘンリー・ダーガーの写真集買います。そんな私に愛の一票を。

投稿: ジュリア | 2009.12.29 21:17

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