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2003.12.10

「コレステロール」にご注意

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私は薬に殺される
 駅前の本屋にぶらっと寄ったら「私は薬に殺される」(幻冬舎・福田実)が平積みだった。話は、医師に処方された中性脂肪・コレステロール降下剤の副作用で横紋筋融解症(参考)となり、骨格筋細胞の融解・壊死が進行した人の話だ。もちろん、話の仕立ては生活の苦しさや裁判などが盛り込まれている。売れているのだろうか。幻冬舎なのである程度の市場の読みがあるだろうが。ちなみにアマゾンには読者の評として「安直なFUD(fear, uncertainty, doubt)的企画本」というのがあって批判的だった。
医療に対する不安感をFUD的手法をもってあおるのは簡単だろうが、~~現実に苦しんでいる患者の役に立つとはとても思えない本である。一般読者には本書より、むしろNHK出版「今日の健康」を購読するなどして積極的な情報を収集するほうが良いのではないだろうか?~
 世の中いろんな見方をする人がいるなと思う。それと、「今日の健康」というのはそれほど有益なものだろうか。  話を被害者に戻す。問題を起こした処方(ジェネリック)を見ると、当初「ペザフィブラート」で、それに「プラバスタチンナトリウム」を追加したようだ。それを見て私は、あれ?という感じがした。  最初の処方時の状況を見直すと、コレステロール値は257とたいしたことないが、中性脂肪は651と高い。ペザフィブラートの処方はそこに着目したためだろう。ただ、フィブラート系で長年利用されてきたし海外評価も高いクロフィブラート(1965年認可)ではなくベザフィブラート(1991年認可)が選ばれているのはなぜだろうか疑問がある。それと、中性脂肪は一日の内でも変化しやすいので、再検査する気はなかったのだろうか。だが、それらの疑問はあれ?というほどでもない。  あれ?の最大の理由は、フィブラート系とスタチン系の併用についてだ。この併用は薬剤師なら誰でも知っている禁忌なのに、なぜそんな処方がされていたのだろうか。そんな馬鹿なという感じすらする。  この禁忌の情報は比較的最近に出たものだったっけかなと、ちょっと調べなおすとそうでもない。ちなみに、この副作用を扱った「医薬品副作用情報 No.112」(参考)の発表年は1992年。ベザフィブラート認可の翌年だ。被害に遭われた福田さんが処方されたのは7年前というからすでに、禁忌情報は行き渡っていていいはずだ。初歩的なミスだと言っていいだろう。  スタチン系の薬が追加されている点にも時代的なものを感じる。「プラバスタチンナトリウム」つまりメバロチンは1989年に発売、1993年には国内医療用医薬品として初めて年間売上1000億円を越えた。もともと日本が開発した薬ということもあって当時の厚生省も随分がんばった。動脈硬化学会もメバロチンの発売に合わせてそれまでコレステロールの正常値250を220まで下げたので、日本国中高脂血症患者ができた。  薬学的に気にかかるのは、横紋筋融解症の副作用は当面の問題としては、フィブラート系とスタチン系の併用なのだが、どちらにより問題があるかといえば、すでに一昨年のセリバスタチン(バイエル)の回収からもわかるように、スタチン系にその薬理が潜んでいそうだ。スタチン系薬剤による横紋筋融解症の発現頻度は0.5%以下と言われているが、潜在的な危険性は高いののではないだろうか。薬理学会に北海道薬大・薬理・市原和夫氏による「スタチンと心疾患予防 」(参考)と題する興味深い話題が掲載されていた。
 生体細胞内でメバロン酸経路は,その細胞の生命維持や機能発現に重要な係わりを持つ多くの物質を産生する.コレステロールでさえ,生体に必須な物質である.スタチンは,メバロン酸経路の律速酵素であるHMG-CoA 還元酵素を強力に阻害する.したがって,薬理学をかじった者であればその当初からスタチンの多面的作用に気付く.筆者は,水溶性スタチンと脂溶性スタチンの相違について1993年に第1報を報告した(J Cardiovasc Pharmacol 22, 852-856).  同年,スタチンによる動脈硬化改善を観察した最初の臨床試験が報告された(Ann Intern Med 119, 969-976; Circulation 89, 959-968).肝臓細胞膜に存在する有機アニオン輸送担体にその細胞内移行を頼らざるを得ない水溶性スタチンと異なり,細胞膜透過性に勝る脂溶性スタチンはあらゆる臓器・組織の細胞内へ移行し得る.
 現在スタチン系の薬剤はアスピリンとならんで各種の効果の研究が進んでいるがそれだけ、身体全体に関わる効能を持っていると見ていいだろう。当面の問題としては確かにセリバスタチンのような脂溶性のスタチンの危険性は高そうだ(メバロチンは水溶性)。  いずれにせよ、スタチン系薬剤の副作用が現在考えられているより高いかもしれないとすれば、できるだけその潜在的な被害を減らすべきだし、端的に言って、コレステロールの基準値はもとの250に戻すべきだろう。  たまたま今週の「週刊朝日」を買ったら、「医学界の「タブー」徹底検証 脂質栄養学の専門家が問題提起 コレステロール『高い方がいい』の衝撃」があって読んだ。なにが徹底検証だよというお粗末な内容。徹底検証ならもっと検証しろよと思う。いずれにせよ、特に高齢者の場合、220を基準にコレステロールを下げることは危険だし、リノール酸も問題。記者は賛否両論併記のつもりだろうが、そうすることで、脂質栄養学会の成果に実質無視しているに等しい。なんでこんなつなんない記事になるのか呆れるが、リノール酸やトランス脂肪酸の問題など、おまえさんたちメディアがタブーを作っているのだと思う。呆れたことに、ついでだが「買ってはいけない」系の人々はまるで脂肪酸についての理解がない。「安全な食品」を標榜してマーガリンを入れるのかよっていう感じだ。

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コメント

最近このブログを興味深く読ませていただいています。
政治関係や国際関係について、私の知識がそれほどないこともあり、楽しく読ませていただいています。
しかし、いざ私の専門である医療関係の話になると、finalventさんは知識が豊富であるにもかかわらずミスリーディングなエントリーが多く、困惑しています。

とりあえずコレステロール(悪玉であるLDLコレステロール)に関しては、大規模な臨床試験が複数あり、基本的には薬剤により下げれば下げるほど心血管イベントや総死亡を下げることが証明されています。

実はこういう書き方も誤解を招く可能性があるという風に思うのですが、医学に限らず科学の世界の証明されているという事柄(いわゆるエビデンス)には、その証明が正しいかどうか読み解く知識と、どれくらいそれが確かかという背景をどれだけ理解しているかという面が重要です。科学論文は基本的に発表は自由ですので、いろんな内容のものが星の数ほどあり、当然用いた手法や規模などによりその確からしさが異なるので、要約を読んだだけではその内容の評価はできません。論文そのものを読んで、metohodや統計学的手法を含めどういう研究であるか正確に理解するだけの知識がないとそもそも評価不可能です。さらに、科学の世界というのは、いろんな説がありその中で間違ったものが淘汰され正しいものが残っていく過程で発展していくものであり、当然過去を振り返れば間違った説もたくさんあります。光は波の性質を持つというのは今は常識だと思われていますが、過去には光は波でないと主張していた科学者も多いのです。ですから、そういう科学論文や科学的根拠が正しいかどうか判断するには、その分野で発表されている他の科学論文や科学的根拠の広範な知識が必要で、それをなしにいわゆるトンデモな科学的根拠を引用したり、引用元の科学論文は正しいのに、背景の知識がないためそれを間違って理解して曲解して間違った結論を導き出したりという、トンデモ科学というのが多くあり、医学の世界で特にそれが多いこのが気がかりです。

で、コレステロールに戻りますが、スタチンによるコレステロール低下の効果に関しては、無作為化された二重盲検の前向きの大規模臨床試験が複数あり、ほぼそれらのすべてで有益であることは証明されており、この世界では非常に確度が高いエビデンスです。この有益というのは、基本的には総死亡率を下げると言うことであり、横紋筋融解などの副作用をすべて含めての話です。スタチンはコレステロール低下以外の作用があることはすでに広く知られていますが、他の薬剤での臨床試験でも同様の結果が得られています。
これらのエビデンスから、最近アメリカでは、コレステロールはlower is betterという話がどんどん進み、ごく最近ではそれに対する反論(過去の複数の大規模臨床試験をまとめたメタアナリシスでは、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)は100以下になるとそれ以上下げてもあまり効果はないという報告もある)もありますが、少なくとも総コレステロールが250とかいうのは下げた方が患者の有益になるのは専門的な知識があれば明白なことなんです。

こういう話はコレステロールに限らず、例えば血圧などにも言えることで、医学の世界にも、もはや明白な事実になっていることと、専門家の中でも異論のあることがあり、これらは前者に相当します。

このエントリーを見ても、finalventさんは少なくとも多くの患者よりはよく勉強されており、他のエントリーを見ても良識もありインテリジェンスも低くないと思われます。
にもかかわらず、「いずれにせよ、特に高齢者の場合、220を基準にコレステロールを下げることは危険だし・・・・・記者は賛否両論併記のつもりだろうが、そうすることで、脂質栄養学会の成果に実質無視しているに等しい。(余談ですが、現在では総コレステロールではなくLDLコレステロールが基準になっています)」
という明らかに誤った結論をこういう読者のある程度多いblogで流布されているのが残念です。
こういう記事を見かけるたびに思うのが、生兵法は無知よりも害をもたらすということです。

引用されているアマゾンの書評の、
医療に対する不安感をFUD的手法をもってあおるのは簡単だろうが、~~現実に苦しんでいる患者の役に立つとはとても思えない本である。
という見方も良く理解できます。
例えば副作用を恐れて高脂血症の患者がスタチンを飲むのをやめれば、心血管障害の発症可能性が著明に上がることは明らかであり、トータルで見て有害なことは明らかだからです。

厳しいコメントになりましたが、繰り返しになりますがこのblogの多くの記事は楽しく読ませていただいています。
ただ、こういう学術的な記事に関しては、市販の読み物ではなく、できれば専門家に対する教科書の様なものに目を通し、そこで引用されている科学論文を(せめて要約だけでも良いですから)一通り目を通した後で書かれることをお勧めします。


投稿: a researcher | 2007.08.21 04:38

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