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2003.11.07

再考・マハティールと田中宇の言及について

 ロシア政局関係で田中宇がまたエンタテイメントを書いているんじゃないかとなと思って、サイトを覗いたら、「マハティールとユダヤ人」という記事があった。読んでみた。うーむ、さすがインターネットを駆使する国際ジャーナリストっていうのは伊達じゃないな。というか、私のほうがうかつの極みだった。せめてはてなの回答くらいにはサーチすりゃよかった。恥だったぜ。というのは、バンコクポスト掲載のマハティールインタビューはネットでちゃんと原文が読めるのだ。Mahathir: Jew comment out of contextがそれだ。
 そしてだ、今回のサーチで我恥じること多しだが、以下の言及を見たとき、やったねと思った。我ながら喝采である。


Anti-Semitic comment: Just recently in Japan the Japanese newspapers put down my talk to me being anti-Semitic. They just picked up one sentence of my speech. In my speech I condemned all violence, even the suicide bombings, and I told the Muslims that it's about time we stopped all these things, and pause and think and do something that is much more productive. That is the whole tone of my speech, but they pick up one sentence in which I said the Jews control the world.

 ちょいと訳そう。

「最近の日本でのことだが、日本の新聞各社は私の発言を反ユダヤ主義に矮小化してみせた。彼らは私の演説の一文だけ抜き出しただけなのだ。だが、私の演説では、自爆テロを含め、全ての暴力を非難している。そして、私はイスラム教徒に向けてこうしたことを止める時期だと言ったのだ。今立ち止まって、もっと前向きなことを考えべきなのだ。これが私が演説で言いたかったことだ。だが、彼らが取り上げたのは、ユダヤ人が世界を制御しているという一文だけだ」。

 ちゃんと聞けよな、日本の新聞各社の糞ったれども! 特に読売新聞!

 田中宇もこういう点は触れないんだよね。
 というあたり、若干話が雑談になるのだが、田中宇の歴史認識ってなんだろう?と変な気持ちになる。ちと長いがこういうくだりなどどう考えたらいいのか。


 これに対し、マハティールは間違っているとする欧米系の一つの論調として「近代民主主義の考え方はユダヤ人が作ったのではない」というのがある。ヨーロッパで、腐敗している教会(聖職者)が神と信者の間を仲介することを嫌うプロテスタント運動が「聖書のみが聖典であり、その解釈権は(教会ではなく)各個人にある」という考え方をとり、そこから「(神のもとでは)万人が平等だ」「(教会や王室ではなく)各個人の意志決定が集積されたもので政治が動くべきだ」という考え方に発展し、それが人権や民主主義という概念になった。(関連記事)
 だが、この歴史的な過程で私が重要だと思える2つのポイントがある。一つは、人間が主体的な選択に基づいて神との契約を結ぶという概念はユダヤ教に強く、プロテスタントの運動はユダヤ教の考え方を借りて成立したということ。
 もう一つは、プロテスタント運動の中で最も強く政治的な方向性を伸ばしたのが欧州での迫害から逃れて新大陸アメリカに入植した清教徒(ピューリタン)であり、彼らが旧大陸から新大陸に渡る際、自分たちの行動を、古代のユダヤ人がエジプトの圧政を逃れて「約束の地」(今のパレスチナ・イスラエル)へと移住する旧約聖書の「出エジプト記」の故事になぞらえたということである。

 田中宇に言わせるとこうだ。

  1. プロテスタントの運動はユダヤ教の考え方を借りて成立した
  2. プロテスタント運動の中で最も強く政治的な方向性を伸ばしたのが欧州での迫害から逃
  3. れて新大陸アメリカに入植した清教徒(ピューリタン)

 それって、トンデモだぜ。1についてだが、田中宇は、プロ倫こと「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」を読んでいないのか? ただのおバカ? あるいは、読んでいてそう言う? 確かにヴェーバーは古代ユダヤ教のエートスを宗教社会学の基礎にすえ、その先にプロ倫を結びつけたが、プロテスタント運動については、カルバンの予定説が重要になる。そして、その予定説は、ユダヤ教とは直接は関係ない(ユダヤ人全体が選民だし)。
 2については、初期入植者が新世界をエルサレムに擬したのはたしかだし、その阿呆な名残は1ドル札のデザインにも残っているが、「プロテスタント運動の中で最も強く政治的な方向性を伸ばした」っていうのは違うぜ。伸ばしたのは、欧州のカルバン主義者のほうだ。むしろ、新世界アメリカの政治的な動向は、ジョン・スチュワート・ミルの「自由論」を読めば示唆されるように、モルモン教などに象徴される。また、そのファナティックな方向はセーラムの魔女のような事件から探ったほうがいい。まさかと思うけど、田中宇は「自由論」も読んでいない?
 なんだか田中宇くさしみたいになってしまったが、率直に言ってそうではないよ。ちゃんときちんと教養を積んでくれよと思うだけなのだ。

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コメント

「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」、ジョン・スチュワート・ミルの「自由論」あんたはこんなのしんじてんのかよ。かるとしんじゃじゃねー?ばぁか!

投稿: | 2006.08.08 09:57

率直に言ってほとんど内容が把握できませんでした。
(恥ずかしいことに、私の教養不足が原因です。)

私は田中字さんのメルマガを購読しているのですが
その面白い記事に感心していました。
そこで、字さんをgoogleで調べ、この記事に出会ったわけですが
内容があまり理解できなくても、字さんに対する指摘は、
新鮮な気持ちで読ませて貰いました。

長文になってすいませんでしたが、記事を読んで興味を感じたということを
単純にコメントがしたかっただけです。

できればソースや、上の著作の理論を素人にもすっと理解できるような
解説文などを付け加えてくれると非常にうれしいです。

投稿: mamasama | 2007.03.02 17:48

>mamasamaさん
田中宇が持論の前提にしている『世界多極化』は中共が掲げる目標そのものです。中共は第二次大戦後に他国へ何度となく軍事侵攻した実績を持ち、さらに日本には並々ならぬ敵対心を持ち、核ミサイルの照準を合わせ、領海を侵犯し、ガス田を盗掘し、尖閣諸島の侵略、台湾・ウイグル・チベット侵攻を目論む最大最悪の人権蹂躙国家です。経済面ならともかく、政治面で中共に寄りかかることを推奨する田中宇の主張は到底受け入れられるものではありません。
国際情勢について検索するとかなりの高確率で田中宇の記事がヒットしますが、この現状はなんとかしたほうがいいと思います。インターネット後発国の日本は、こういうところで中共や朝鮮のシンパにシェアを握られているのが痛い。

投稿: way | 2007.03.13 09:09

wayさんのコメントを
中共の部分を米国に置き換えても違和感ないのがなんとも…^^;

投稿: op | 2007.06.07 17:06

もう少し言葉使いを丁寧にしてほしかった。これがこの記事を読んで思った率直な感想です。

投稿: コウコウセイ | 2007.07.23 23:23

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