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2003.11.03

試訳憲法前文、ただし直訳風

 文化の日というのは、明治節の焼き直しなのだが、サヨ全盛の戦後は、GHQがわざわざご配慮してくださった憲法公布の記念日を戴き、傷口のかさぶたのようにしている。GHQの新聞検閲は廃止されたけど、その伝統は、なーんと産経新聞にまで生きているので、今朝の新聞社説は産経新聞まで明治節を忘却し、憲法の話ばっかし。小林よしのりが言うところのポチ保守なんてこんなもの。もっとも小林よしのりの歴史観や民族なんてものも、古事記が偽書(*1)であることも認めたくない近代の偽物だなのが。
 明治節とは戦前の四大節のひとつで明治天皇の誕生日を祝ったものだ。1927年に制定され、1948年に廃止された。それにしても珍妙なのは、明治天皇が生まれた時代には日本はキリスト教国が採用するグレゴリオ暦になっていなかったのに、天皇誕生日までキリスト教風にコンバートしてしまった。
 明治天皇睦仁(むつひと)は孝明天皇の第二皇子。幼名は祐宮。「さちのみや」という。有名な童謡「さっちゃん」の原型である(大嘘)。1852年生まれ。もちろん旧暦で、9月22日。ちなみに今日は旧暦で10月10日。古来日本には西欧キリスト教徒のように誕生日を祝う悪習はないのだが、1か月もずれているぜ。
 睦仁親王は1867年に践祚。っていうことは、天皇位に付くのは満で14歳。恐らく35歳で病死とされたおとっつあんの孝明天皇は暗殺だろう。親子の情の薄い天皇家とはいえ、14歳で親が殺されるっていうのはどういう感じだろうか。というのが彼の伝記から読み取れるなら、数学的帰納法的に孝明天皇暗殺の信憑性が高まる。

 さーて、今朝の話題は…と思って、そういえば、以前なんかのおりに試訳した日本国憲法前文の原稿があったっけと思って探すとあった。今読み直すと、げっ、だ。なにがゲロゲローなのかというと、なんとか日本語にこなそうとしていたため、まるで池澤夏樹風になってしまっているのだ。

 憲法がお好きなかたかたちやそれを文学的に見る人は、きれいな訳文にしたがるようだ(*2)。だが、このゲロゲローを読み直すに私の訳文などなんの価値もないのだから、いっそ直訳にしてしまえ! というわけで、以下、私の直訳風に戻して垂れ流す。見ればわかるように、完全に直訳じゃない。
 でも、逐語訳に近いから、誤訳があれば見つけやすいだろう。
 率直なところ、日本国憲法の原文(法的には違うのだが)の英語って、ものすごく変。この変さを味わってもらいたいと思う。そのため、原語の語感を強調した。pledgeなど強調しすぎて誤訳に接近しているが、こういう語感があるのだ。
 憲法原文の変さかげんを歴史的に解明した本をついぞ読んだことがない。なにしろ英語が変なのだ。いわゆる理科系の文章のようだ。フツー、憲法にcontrolなんて使うか。米文学者にこの変な英語の由来を期待したいくらいだ。が、文学者は技術英文に弱いからなぁ、やっぱだめかも。
 特に留意してもらいたい点がある。


  • 商用取引の用語が多い。商売感覚で読むと良い。
  • 思想の根幹には「高い理想をもって人間を制御する」とある。スキナー(*3)かよ。
  • the peopleとは国民であり、これがNationに対応している。
  • 日本国憲法はNationの規定なので、Stateは別扱いになっているようだ。
  • この時点で沖縄が含まれておらず、将来的に沖縄は別ステートになる可能性があった。
  • 原文本文でもNationとStateは対立しているが訳文の現行日本国憲法からはわからない。

THE CONSTITUTION OF JAPAN
 日本の憲法
【第1文】
We, the Japanese people,
 私たち日本国民は、

acting through our duly elected representatives in the National Diet,
 正式に選挙された国会の代表の活動を媒介として、

determined that
 以下のことを決定事項とした、

we shall secure for ourselves and our posterity the fruits
 その決定事項は、私たち自身と子孫のために以下の成果を保証すべきだということだ、

of peaceful cooperation with all nations and the blessings of liberty throughout this land,
 その成果とは全国家の協調と(日本の)国土に行き渡る自由という恵みだ、

and resolved that
 またこう決意した、

never again shall we be visited with the horrors of war through the action of government,
 その決意は、政府の活動が引き起こす戦争の脅威に二度と私たちが見舞われないようにしようということだ、

do proclaim
 さらに、以下のことを宣言する、

that sovereign power resides with the people
 主権(統治権)は国民にあるのだと、

and do firmly establish this Constitution.
 だからこの憲法を固く打ち立てる。

【第2文】
Government is a sacred trust of the people,
 政府は国民による神聖な委託物(信用貸し付け)である。

the authority for which is derived from the people,
 その(政府の)権威は国民に由来する。

the powers of which are exercised by the representatives of the people,
 その権力は国民の代表によって行使される、

and the benefits of which are enjoyed by the people.
 だから、それで得られた利益は国民が喜んで受け取るものなのだ。

【第3文】
This is a universal principle of mankind
 以上のことは人類の普遍的な原理であり、

upon which this Constitution is founded.
 その原理の上にこの憲法が打ち立てられている。

【第4文】
We reject and revoke
 (だから)私たちは次のものを拒否し廃止にする、

all constitutions, laws, ordinances, and rescripts in conflict herewith.
 (拒否し廃しにするものは)以上のことに矛盾する憲法や法律、地方条例、勅語である。

【第5文】
We, the Japanese people, desire peace for all time
 私たち日本人は常時平和を望み、

and are deeply conscious of the high ideals controlling human relationship,
 人間関係を制御する高い理想というものを深く意識して、

and we have determined
 以下のことを決定事項とした、

to preserve our security and existence,
 私たちの安全と生存の保持は、

trusting in the justice and faith of the peace-loving peoples of the world.
 平和を愛する世界の国民の正義と信頼に委託しよう、と。

【第6文】
We desire to occupy an honored place in an international society striving for
 私たちは、以下の努力によって、国際社会で名誉ある位置にいたいと願う、

the preservation of peace,
 (努力の目的は)平和の維持であり、

and the banishment of tyranny and slavery,
 (努力の目的は)独裁制度と奴隷制度を払拭することである、

oppression and intolerance
 また払拭する対象は圧政と異説を受け入れない態度だ、

for all time from the earth.
 こうしたことを常時この地上から払拭されるように努力する。

【第7文】
We recognize that
 私たちはこう理解している、

all peoples of the world have the right to live in the peace, free from fear and want.
 世界のどの国民も平和で恐怖や貧困のない生活を過ごす権利がある、と。

【第8文】
We believe that
 私たちはこう信じている、

no nation is responsible to itself alone,
 自国だけに責任を持てば済むとする国家は存在しない、と、

but that laws of political morality are universal;
 そうではなく、政治的な道徳の規則というのは(国を問わない)普遍的なものである、と。

and that obedience to such laws is incumbent upon all nations
 だからこのような規則を守ることは、どの国家にも課せられた義務である

who would sustain their own sovereignty
 その義務は自国の主権を維持しようとする国家に課せられている、

and justify their sovereign relationship with other nations.
 また、その義務は他国との関係で主権を正当化しようとする国に課せられている。

【第9文】
We, the Japanese people, pledge our national honor
 私たち日本人は以下のことに国家の威信を掛ける

to accomplish these high ideals and purposes
 そのことは、このような高い理想と目的だ、

with all our resources.
 そのために私たちの全財産と制度を担保としてもよい。

注記
*1:現代の文献学で日本書紀や万葉集などを成立史的に解析すれば、日本語の表記は疑似漢文訓読方式から仮名へと時代変化することがわかる。古事記に見られる整備された万葉仮名の成立は時代的に新しい。古事記が文献的に明らかになるのは、太安萬侶の子孫の多人長が記した弘仁私記序なので、偽作者はおそらく多人長だろう。
*2:ちなみに共同訳の聖書もそのくちなので私は大嫌いだ
*3:参照

[コメント]
# noharra 『興味深く読ませていただきました。ありがとう。』
# レス> 『なにかの参考になれば幸いです。「国民」については池澤さんなども訳に抵抗があったみたいですね。』
# shibu 『江藤淳の3部作で占領時代であることの具体的意味を考え、西修の文庫版で占領開始それも2年も経たないで着手1週間でニューディラー若手(文献集めたのは22歳タイピストのベアテ・シロタ)がデッチあげた代物であることが、やっとわかったりしました。これを採用した(せざるを得なかった)のは幣原個人の決定であるとか突き放す説もあるようです。要は、継接ぎ杜撰の見本でこそあれ検討には値しないってことでしょうか。ご提示の直訳で、手持補強w資料が増えました。』

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コメント

finalventさん、はじめまして。

日本国憲法前文の英文をさがしていて、ここに辿り着きました。私の仕事が英語に関係しているので、つい英語にラブリーバイアスをかけて見てしまうのですが、一意見としてコメントさせてください。

"control"についてですが、私も現行憲法(日本語)の「支配」という訳は誤解を生むのではないかと思っています。どちらかというと「制御」(文脈上ではもっといい表現に変える必要がありますが)の方が原意に近いのではないかと考えています。

「人間関係って、放っておくとあらぬ方向に行くおそれがあるけど、お互いこういう理想を深く潜在意識にもっておいて、我欲や身勝手さを制御していきたいね」

私は英文を読んで、感動しました。これはGHQが一方的に制定させたと分かっていても、どこかでなにか不思議な力が働いたとしか思えません。

ただまあ、今ではないですが、いつかは日本語ベースで制定しなおす必要はあると思っています。

投稿: Kiki | 2007.07.28 10:23

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極めて興味深い。ご一読あれ。 [続きを読む]

受信: 2004.05.03 00:00

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