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2003.11.11

ベストなドイツ人というトホホ

 ドイツでもっとも偉大なドイツ人というのが話題になっているという話をNHKラジオで聞いた。あれ、まだやっていたのか。そういえば、ベストワンの記憶はない。どうやら今月いっぱいが追い込みのようだ。企画はビルト紙とZDFテレビの共同で、今月中には100人から10人に絞り込んで国民投票みたいなことになるらしい。
 この手の企画は数年前イギリスのテレビの真似で話題になって、日本でも早々にパクリネタで文藝春秋でやった。あれはむごい内容になっていた。
 そんなものがなぜ今頃ドイツで、とも思うが、ドイツだと東西分裂もあり、陸続きの国家でもあるので、イギリスや日本とは様相は変わってくるのが面白いところかもしれない。案の定、前段ではモーツアルトが上がるや、オーストリアからクレームがついていた。ケチがついてモーツアルトは20位。すでにこのあたりですでにおちゃらけ感が漂うが、ドイツ人としては自尊心がそそられる祭りではあるのだろう。
 この話題をざらっと日本語でぐぐってみたが、クロールのとろい日本のgoogleではあまり情報はひっかからないようだ。もっと大衆化してフジ産経あたりで企画しているとかのネタでもあれば大笑いだが…などと思っていたら、昨日日本版のCNNにニュースで上がっていた。で、日本版CNNの翻訳では「最も重要なドイツ人」になっていた。ちと訳語が変な感じがする。ドイツ語では、besten Deutschenだから、英語ではBest Germanだ。しかし、同語源の語だが、語用やコノテーションではgreatに近いのだろうか。
 アメリカはドイツ系が多く、戦中彼らもこっぴどい目にあっていることもあり、ぐぐると話題になっていることがわかる。ABCのニュースではEinstein takes early lead in 'best German' pollと無難にアインシュタインに期待をかけているようだ。
 というわけで、気になるノミネートの10人は以下。知っている人に○を付けなさい(各10点、100点満点)。


  • アルベルト・アインシュタイン
  • ヨハン・セバスチャン・バッハ
  • カール・マルクス
  • ゲーテ
  • マルティン・ルター
  • グーテンベルク
  • オットー・フォン・ビスマルク
  • コンラート・アデナウアー
  • ウィリー・ブラント
  • ゾフィー・ショルとハンス・ショル

 で、何点でしたか? 90点以下は不合格だよ。というのも、「ゾフィー・ショルとハンス・ショル」はちと日本人には難しい。白薔薇の話っていうのは、そんなにドイツ人にとって重要な話だったのだろうかと、私も首をかしげるくらいだ。
 100点満点のテストは冗談だが、このリストを見て、なんとも言っていいのか、正直なところ、苦笑するなと言ってしまっていいものか、戸惑う。個人的には、このチョイスでは大バッハで決まりだが、そんな込み入った皮肉を書いてもなぁ。
 アデナウアーとブラントのリストアップは、ドイツもまだ老人はいるのだという印象くらいで、とりあえず外してもいいだろう。こんなのがベストというのでは、手前味噌過ぎて、ドイツ人もお恥ずかしい。同じノリでさらにビスマルクは外していい。というか、ビスマルクを入れるとはジョークなのか、EUに喧嘩売っているのか。
 ゲーテとグーテンベルクはお子様枠。ドイツ人にマルクスって言われてもなぁという感じがする。ふとそのあたりで、このリストの隠れたテーマは「ユダヤ人」だということがわかる。公のメディアではなにかとユダヤ人虐殺謝罪意識が出ざるを得ないのだろう。ある意味、それで、話は全部終わりってなくらいだ。
 ドイツというのは、文化の側面でみると変な国だ。ルターがリストに上がっているように、日本人のイメージではプロテスタントなんだろう。しかし、キリスト教徒の半数はカトリックだ(ちなみにキャベツことコールはカトリック)。バッハの生涯を知っている人なら、史的に根深い奇妙な混合がわかるはずだ。実際、ドイツでは、戦前から新教と旧教の文化は二分し、その狭間にユダヤ人文化がグリューのようになって、始めて文化としてドイツ文化ができていた。その意味で、ドイツ文化の表層にはユダヤ人の文化活動が出ざるを得ない、根深い構造になっている。
 というあたりで、ドイツのカトリックというのは現在どうなっているのだろうと気になってきた。カトリックの多いザールラント(Saarland)ではbesten Deutschenはどんな響きがするのだろうか。それと、今回のこの馬鹿騒ぎ、トルコ系にはどう聞こえるのだろうか。かつてのドイツは内部の文化的な分裂とユダヤ人文化という三項だったが、現在ではその背後に押し込められたトルコ人の文化がある。それを、めいっぱい隠蔽している現在のドイツって、けっこう醜いもんだよなと思う。

[コメント]
# masayama8 『見当違いかもしれないのですが、二大政党制への布石というような世論形成との対比で、かつての日本とドイツの忌まわしい共通項へ遡った検証をも、潜在的になさっているような印象を受けました。まあ、後段は純粋にドイツの文化の検討をされただけなのだとは思うのですが(苦笑)。ただ、僕は潜在的にであっても、そういう態度は重要だと思うのです。忘却するなと言うことの裏の意味は刻印して記憶に留めるからこそ、次を繰り返さずに済むという意味が込められていると思うのです。忘却を進める人たちは、その副次的効果に全く無責任だと思う。それを考えると、今日なさっている検証と言うのは人それぞれ受け取り方は違うでしょうが、必ずニュアンスはわかってもらえるような気がします。僕がニュアンスを誤読していたら元も子もないのですが(苦笑)。』
# レス 『masayama8さんの読み、というより視点は面白いと思います。否定はまったくありません。自分では、ドイツ人にとってもドイツとは「語られたドイツ」になっていくのだと思います。ベースにあるのは世代交代なのでしょう。同じことは日本でも顕著なのです。それとこのところ、若い学者さんかぁというくらいしか自分は関心がなかった、小熊英二への、ある違和感は、語られた歴史と生きられた歴史の差異を、自分も含めどう語るのかというアポリアに根ざしていると思うようになりました。生きられた歴史というのも要するに語られるわけです。二大政党騒ぎについては日本特有の現象かなという気もします。英国ですら二大政党ではなくなっているということがあまり語られていませんね。話はそれますが、EUではない、ドイツでもないフランスでもないイギリスでもないというあたりのヨーロッパの歴史を再評価したいと思うので、この手の話はまた書きます。そういえば、日本ではポーランドのイラク派兵についての議論も見たことないですね。』

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