東電OL殺害事件被告は冤罪である
今朝の新聞各紙社説ではイラン核疑惑を扱うテーマが多かったが、あまり要領を得なかった。パキスタンの核について言及がなく、表向きの正義の立場に立つ新聞のあり方が不快にすら思える。そして、ある程度予想はしていたが、今朝の新聞各紙社説では東電OL殺害事件のネパール人被告の無期確定についてはテーマとして取り上げられていなかった。日本社会にとって些末な問題だと思っているのだろうか。あるいは、1997年は随分昔の話なのかもしれない。
昨日はこの問題が気になって、ネットの情報を調べなおしてみたが、事実上ベタ記事扱いになっていた。たいした問題ではないという印象すら受ける。こんなとき、自分の社会の感性と報道のズレに奇妙な違和感を覚える。自分の感性のほうが正しいと素直に確信できるときも多い。今回のこの問題については、率直なところよくわからない。22日毎日新聞のコメントで『東電OL殺人事件』を書いた佐野眞一は次のように言っているが、編集のせいもあるのだろうが(担当者は小林直、渡辺暖、清水健二)、あまり熱意のようなものは感じられない。
1審で無罪になった時点で強制送還するべきだったのに、裁判所が不当に拘置を続けた末に出された決定で、まったく理不尽。まともに証拠を評価すれば無罪は間違いないと思っていたのに
私はこの裁判は冤罪であると思う。その理由は、佐野の書籍に依存するもので、特に自分の視点があるわけではない。ので、それをここに縷説する意味はないだろう。裁判争点の観点から簡単にまとめればこうだ。
- 殺害現場に残された被告の体液と体毛の鑑定評価
- 現場アパートの鍵を被告が持っていたことの重要性
- 交遊関係を詳細に記した女性社員の手帳の信用性
1については被告を特定していない。2についてはその事実認定自体が疑わしい。もしそうだとするなら、いくら外国人だからといって犯罪者なら間抜け極まる。3については信憑性が高い。つまり被告は客になっていないと見ていい。その他、被害者の財布が被告の土地感のない場所から発見されたことも検察の議論はおかしい。
話を戻して、佐野の熱意が失せているという私の印象が正しければ、多分に佐野には実名問題があるのかもしれない。佐野が責められるべき筆頭となってしまった感はある。彼の関心事が冤罪事件というより、東電OLの生き様に向いていたせいもあるだろう。いずれにせよこの事件では被害者がスキャンダラスに取り上げられてしまった。そのことは当然良いことではないが、しかし、被害者のありようを見つめないかぎりこの事件の真相はわからず、そしてその見つめる過程に事実上実名が織り込まざるを得ないのではないかとも思う。
ネットを眺めると、ゴビンダ・プラサド・マイナリ被告への支援運動が見られないわけではない。だが、印象では活発だという印象はうけない。事件そのものの呼称自体が報道各社で定まっていない。「東電OL」という佐野著の名称は、支援運動などの展開の過程から次第に避けられ、「電力会社OL」といったナンセンスな言い換えもある。OLという言い方すら適切ではないと言うこともできる。「東電女性社員殺害事件」とも言われる。だが、些末な問題だ。
いったいどうしたことなのだろうと私は思う。私たちの社会が罪なき者を罪に定めているのだ。私はあきらかに加害者なのだ。そして私たちの社会に正義がないことに恥じていないのだ。と、パセッティックに言ってもしかたがないが、昨日は心の深いところで動揺しつづけた。
いちおう裁判の経過からすれば、明日24日までに被告側の異議申し立てがなければ、逆転有罪判決が確定する。当然ながら、異議は出る。だから本当の展開はこれからなのだ、と言えないこともない。だが、すでに日本のジャーナリズムの熱は冷めている。確かに、この事件に関して、新しい事実の展開はない。検察側の状況証拠という、与えられた文書だけをもとに、実体のない議論だけが展開する中世の神学のような様相を呈している。あるのは解釈だけ。ジャーナリズムとしても書けば書くだけ空転してしまうことは予想される。
今回の裁判に関連して、22日の読売新聞に気になる記載があった。
今回の最高裁決定によって刑が確定した後、服役態度が良好として一定期間後に仮釈放された場合は、入管当局が強制退去させることになる。
たった1行なのだが、これはどういう意味なのだろう? 私の理解では「文句言わずに無期懲役を受けておとなしくムショに入っていたら3年くらいで国に帰してやるぜ」ということだ。そうなのか? 一種の司法取引と言えないこともないが、そんなのアリなのか。馬鹿にされるのを覚悟で素直に問いたい。正義というものは日本にないのか?
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コメント
「午前0時の逃亡者」永島雪夫著 をお読みになりましたか?
この本を読んで、今とても衝撃をうけています。
投稿: | 2008.09.19 23:43
東電OL事件に関しては、真犯人追跡を目的とした永島氏の取材がベスト。
円山町の人々からも捜査一課からもその綿密な取材によって絶大な信頼を得ているそうです。しかし、検察は証拠隠滅など汚い手を使い、捜査を打ち切りました。その上、私の知り得た情報ですが、証人達も次々と鬼籍に入られてしまいました。残念です。佐野氏の場合はまた方向性が少し異なっていて永島氏のように冤罪を唱えながらも犯人を追求するものではなく、おっしゃられるように彼女の生き様に興味があるようです。
投稿: 真実の行方 | 2014.04.25 17:20