アゼルバイジャン大統領選挙は問題にもならない
朝日新聞と産経新聞が同じテーマを扱うことがあっても、同じ論調になることは少ない。だが、アゼルバイジャン大統領選挙については産経と朝日の社説を入れ替えても大丈夫といった趣だった。このこと自体が問題だと思うので書いてみたい。
朝日の社説は文章が下手くそなので、ことの次第は産経をまず引用しよう。
アゼルバイジャン共和国の大統領選挙で旧ソ連共産党政治局員だった現アリエフ大統領(八〇)の長男、イルハム首相(四一)が約80%もの得票率で当選した。旧ソ連圏では初めての権力世襲だ。首都バクーでは世襲体制と「選挙操作」に反発する野党支持勢力の数千人が投石などで警官隊と激しく衝突、死者を出す流血騒ぎとなった。
選挙監視に当たった欧州安保協力機構(OSCE)も「選挙は国際基準に合致していなかった」との非難声明を出した。
産経のこの先の言い分はこうだろう。今回の大統領選は民主化に逆行する。この状態では、日本がアゼルバイジャンの石油開発に資本を投入しても無駄になる。
朝日の言い分は、民主化を進めよということだろう。が、毎度のことながら、よくわからない。朝日新聞は大学受験によく利用されると誇ったようなことを言っているが、逆じゃないか。大学受験にしか利用できない文章なのだ。くさしはさておき、結語として、アゼルバイジャンを含めこの地域について、こう言う。
いずれもイスラムの国だ。貧富の差が縮まらず、不満を強権で抑えつけたままでは、原理主義の脅威にもさらされるかもしれない。時間はかかっても統治の民主化を進める。アゼルバイジャンにはむしろ、その先例になってもらいたい。
馬鹿げたことを言うようだが、さて何が問題なのか? 選挙監視にあたった欧州安保協力機構のコメントである「公正さは国際基準に達していない」を朝日も引用しているのだが、さて、欧州安保協力機構はこの選挙は無効だと言っているか?
右寄りと思われている世界日報だが、その記事「EUがアゼルバイジャン大統領選挙の結果を承認」(参照)では次のようにある。報道事実としては正しいのではないか。
【モスクワ18日大川佳宏】ブリュッセルからの報道によると、欧州連合(EU)は十八日、現職ヘイダル・アリエフ大統領の長男であるイルハム・アリエフ大統領が当選した十五日のアゼルバイジャン大統領選挙について、「いくつかの欠点がある」と指摘しながらも、「前回の選挙と比べて進歩があり、選挙を国際基準に合致させるための努力が行われた」と評価、選挙結果を承認する意向を明かにした。
つまり、EUは今回の大統領選を承認しているとのことだ。だとすると、くどいようだが、なにが問題なのか。関連して朝日は次のように問題の背景についてコメントしている。
これらの国々はイラクやイラン、アフガニスタンに近い。だから米国もロシアも、内政面の安定を重視し、強権的な支配には目をつむってきた経緯がある。とくに9・11事件後、アゼルバイジャンや中央アジア諸国が反テロ戦争に協力したことがその傾向を一層強め、世襲にも有利な条件をつくった。
ロシアのほか、石油開発に巨額の投資をしてきた欧州や日本も、アゼルバイジャンでの世襲を容認している。
米国の動向が今ひとつわからないが、それでも現実的には日ロ米欧州が今回の世襲を承認している。アゼルバイジャンは1000万人を満たない小国家だし、歴史的な背景もあるのだから、「今回の大統領選挙は民主的とは言えない」といった単純に内政干渉的な意見を社説で述べても意味がないのではないか。
ようは世襲制の問題ではないのだ。世襲制ならジョークのような北朝鮮もある。朝日も産経も、問題は石油というところに関心を持たせたいというのが本音だろう。であれば、純粋にそう論じればいい。だが、おそらくそうした石油への色目は、石油を戦略物資のように見る誤解の上に成り立っているのではないか。
世界は安定供給される石油を必要としているし、それをアラブ世界にのみ依存することは好ましくない。ロシアの息の及ぶ石油が近未来的に有望視されるなら、それも悪いことではない。石油が流動性の高い商品であるかぎり、ロシアやアメリカといった国家は問題ではない。むしろアゼルバイジャンの石油について潜在的な問題は、パイプラインの出口のトルコなのではないか。
アゼルバイジャンの石油問題について、船橋洋一の「中央アジア国際石油政治、台風の目はアゼルバイジャン」(参照)が参考になる。米ロの緊張が解消した現在、解説の大半は古くさいが、トルコやイランとの関係など基礎知識を得るには好都合だ。特に、イランとの関係の指摘には注目したい。
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