WTOカンクン会議を考え直す
昨日、今週の日本語版ニューズウィークを読みながらWTOカンクン会議について思ったこと少し書いておきたい。
WTOカンクン会議について日本の新聞の社説レベルでは日本孤児論か、先進国は譲歩せよといった思考停止の意見ばかりなのは、問題が日本社会にうまく捕らえられていないからだろう。あるいは左翼主張の変奏曲なのか、単純にWTO氷結といった代替のない政治運動も目立つ。
WTO投資協定を問題視するのはいいとしても、その問題が具体的に途上国の政府の施策と噛み合う方法論をもっていないので、単なるアナーキズムか、反グローバルを装う超国家志向になってしまう。それでは現実的ではないし、眼前の貧困問題に対処できなくなる。どこでいつ妥協するのか。その交渉のポイント探しは、従来のように米国に甘えられるグローバリズムが実質的に崩壊した現在、むしろ途上国側の政府に求められている。
今回のカンクン会議は、ニュース的には、韓国人の反対運動などが目立ったものの、従来ありがちな「米国的グローバリズムによって地球と途上国の生活環境を破壊するWTOに反対しよう」という無知性な反対は少なかったようだ。なのに、完璧に会議が失敗に終わった、ということの評価は、ジェフリー・ガーデンの記事「火だるまの新ラウンド(Going Up in Flames)」が、それなりによくまとめている。すべての国が敗者となった、という指摘の強調と今後の期待を込めるあたりは重要だろう。もっとも、中国への期待はブラックジョークに近い。
同記事で扱われているように、WTOへの反対姿勢は発展途上国に不利だから、というのが従来までの理由付けだった。だがカンクン会議では、米国やEUの強国志向かつ内政志向の問題もあるとはいえ、会議の実際局面ではむしろインドとブラジルの攻勢が強すぎたことが失敗の原因だ。ただし今回の事例をもって、インドとブラジルを夜郎自大だというふうに責めるわけにもいかないだろう。実質WTOの破綻からFTAに向かうことで、世界が新しくブロック経済化となりつつある現在、いずれそうした寂れた商店街組合的な勢力が出てくるのは避けられない。
と、曖昧なことを書きながら、ちょっと危険な思いがよぎる。暴論かもしれないのでこっそり言うと、NPOが国家間の問題に入れ知恵や口出しするのが間違いなのではないか。結局NPOといってもその実態は先進国ベースの組織なのでその存在とインテリジェンスは途上国政府を圧倒してしまう。NPOは小国家より強力な政治力になりつつある。むしろ、NPOと途上国とのプラクティカルな協定が必要なのではないか。
一般論でお茶を濁すようだが、なにごとでも事態に反対するという勢力の結集はたやすいが、それではなにも生まれないし、そうすることで温存されていく権力はより危険性を増すのだ。
綿をつむぐ貧困国の農民にはフェアなトレードが求められるが、それにはちんけな義捐金を伴うヒューマニズムではなく、本当は適正なマーケットが必要なのであり、厳格にグローバルなルールが必要になる。ローカルルールは結局、より不平等な人をダシにしてマーケットを否定することで、構造的な不平等と一部の人の利益を生むだけだ。
追記
あとで気が付いたのだが、カンクン会議について田中宇が記事を書いていた(参照)。なんだコレ?というのが率直な印象。特に以下の議論はめちゃくちゃ。単純な悪口になるんだが、頭悪いなぁ。そこまでして笑いを取るか。
WTOで先進国の農業保護政策がやり玉に挙げられるのは、先進国が国内農産物市場を開放すれば、その分だけ途上国が農産物の輸出を増やすことができ、不当な南北経済格差を減らせるという理屈に基づいているが、これは必ずしも正しくない。たとえば、韓国や日本がコメ市場を開放すると、まず入ってくるのは日韓の消費者の口に合う銘柄を開発してきたアメリカとオーストラリアのコメである。これでは途上国を助けるどころか、日韓が安全保障だけでなく食糧面でもアメリカの属国になる傾向を強めるだけだ。
馬鹿を言っちゃいけないよ、WTO問題は日本のコメ問題じゃないよと言いたいところだが、それ以上説明するのがかったるい。商品の流動性の基本だとか大豆GMOなんかも触れなくていけないしな。と説明を省くのが私の悪い点だな。逆に、田中宇はフツーの文章でも『細野真宏 経済のニュースがよくわかる本』みたいに基礎からちゃーんとお猿にもわかるように書くという点でプロなんだと思う。
でも、結局、田中宇は何が言いたいのだ? ブラジルやインドのG21に希望を持つ? よくわかんないです。
10月2日、アフリカ開発会議(TICAD)についてふれていた日経新聞社説「アフリカの農業に市場を」がよかった。結語は以下。
今回の会議でもウガンダのムセベニ大統領らはアフリカがモノを作っても国際的な市場が開放されていなければ意味がないと強調した。ODA供与が途上国支援のすべてではないことを改めて認識しておきたい。
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