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2003.09.05

日中軍事交流には中国国内の権力闘争的な意味があるのだろう

 朝日新聞社説「防衛交流――日中の信頼を深めよ」では日中の防衛担当者会談について、好意的な評価を加えているのだが、単純な反米意識の裏から薄気味悪いトーンを漂わせている。
 朝日新聞によれば、途絶えていた交流が再開されたのは、中国側の推進要因としては、胡錦涛主席のプラクティカルな政治意識(歴史問題をヒステリックにこだわらない)、米中関係の安定、北朝鮮の核武装化を挙げている。また、日本側では中国の承認を必要としたと朝日新聞臭いことを挙げているが、これはご愛敬の部類だ。


日本側にも、北朝鮮に対する脅威感を背景にしたミサイル防衛や情報衛星の導入、有事法制の成立などの最近の政策転換について中国の理解を求める必要があった。

 表層的には朝日新聞は日中友好が大切という小学生(大学生?)のようなことしか言えないので、次のような話に堕してしまう。

 日本国内の安全保障上の関心は、目下北朝鮮に集中している。だが、長い目で見れば、中国との間で信頼の醸成に努めることが日本の安全や東アジアの平和のためにいかに重要かは言うまでもない。日中間の信頼が強まることは、北朝鮮問題への多国間の取り組みにもいい影響を与えうる。

 だが、ことはそんな単純ではないことは、日本の軍事が米国の軍事の末端に組み込まれていることからでもわかる。田中宇的に見るとこれも米国の差し金になるだろうといった冗談はさておき、実際的に日中の軍事交流はなにを意味しているのか気になる。
 状況的に問題を解釈するなら、北朝鮮の暴発対応が裏で議論されていたという線もありえる。だが、そういう解釈はたぶん間違っているだろう。実際のところ、この件で日本が米国を出し抜いてできることなど皆無だ。
 別の補助線を引こう。報道的にはあまり触れられていないが、日中の軍人レベルの交流はこの間も悪い状態ではない。基本的に現代の軍人というものの大半はたんなるテクノクラートなので、その交流は他分野の自然科学と似たり寄ったりということになる。そこから得られた情報と状況分析も自然科学的なものになる。現代的な軍人同士の視点からすれば、日米間の摩擦は実質不可能な均衡状態にあることは理解されているはずだ。だとすると、この均衡の意味を考える必要がある。
 中国側の軍事的な課題は、従来なら、私の認識では、移動式ミサイルの開発だったはずだ。核弾頭や大陸弾道弾を持っていても、移動式のシステムが確立されていない限り、米軍の敵ではない。恐らく、その事態に備えるように日本の自衛隊もシステム化されている。単純に日本のミサイル防衛(MD)がそれに該当するのかもしれない。
 こうした旧来の軍事的な視点から見るなら、中国の移動式ミサイルの有効性を早めるために政治に中国が手を伸ばしてきたとも推測できないこともない。
 だが、私の杜撰な直感でいえば、胡錦涛は大陸弾道弾など冷戦的な軍事をナンセンスだと思っているのではないか。移動式ミサイル開発といった方向性を中国内部で方向転換させ、より局所的な軍事力を強化しようする一環として今回の動向があるのではないだろうか(局所的な軍事力は実際のところ、帝国化した中国内部の統制に行使されるのだろう)。
 歴史のお荷物となりつつある人民解放軍の軍事長老達を実質的に権力から抹殺するための布石なのかもしれない(とはいっても人民解放軍自体が解体されるわけではないだろう)。

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コメント

単にタイトル以外には関係ない話をすれば、中国の外交というのはとことん内政の反映のはずです。

中国国内での権力闘争が外国との外交のあり方に深く影響してくる。

どの国の最高権力者でもそうなのだけれど、中国のその時点での最高権力者とあまり仲良くなってしまうと、中国国内の最高権力者予備軍の連中が、当該外国の仲良し最高権力者の政敵たちとつるんで、他国の内政を荒らしまわる活動をするという具合になるはずです。あまり突っ込んだ話はするつもりはないけれど。

日本の政治家や官僚や財界人には、中国の特定の権力者とあまり仲良くならないでほしいと思っています。別の人が日本国内の対抗勢力と手を組んで日本の内政を荒らすはずだから。

「台湾問題には口を出すな」といわれたら、口は出さないけれど、台湾と商売は熱心にする、というしたたかさが必要だと思ったほうがいいし、事実そうしているはずです。

中国と直接商売するなら、アメリカの共和党のだれが中国のだれと頻繁に顔合わせしていて、民主党のだれが頻繁に訪中しているかとか調べたほうがいいし、ロシアの歴代駐中国大使もどの国から中国に赴任して、次にどの国に赴任しているかとか調べといたほうがいいと思います。

中国は、まだまだ三国志や水滸伝の社会のままだと思っておいたほうが安全だと思われます。

ちなみに私は中国が嫌いではありません。相手をよくわかって上手に付き合うべきだと思っているだけです。

投稿: 中国の外交 | 2009.01.15 12:51

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