[書評]免疫と腸内細菌
昨日買って読んだ『免疫と腸内細菌 平凡社新書 195』が存外に面白かった。日本の健康食品は冗談としては面白いが身近なものが実践したりすることがあるので、気が気でない。イチョウ葉の焼酎漬けなど危険なのだが、実践者はみのもんたが健康に良いと言っていたとか答える。反面、インテリぶった医者は健康食品を馬鹿にするのはいいのだが、栄養学の基礎も知らないし、ドイツのコミッションEなどの動向も知らないことがある。同じく無知なのだ。『買ってはいけない』をきれいに批判したお勉強屋さんの日垣隆ですら、お勉強のノリで『「食べもの情報」ウソ・ホント―氾濫する情報を正しく読み取る』なんぞをまっとうな見解だと賞賛する。中途半端なお勉強ではわかりづらいことなのかもしれない。それでも、著者高橋久仁子の論文の読み方は偏向していることくらいはわかりそうなものだしし(参照)、最近まで妊娠なども専門分野でありながら葉酸についての言及もなかった。栄養補助食品教育法案(DSHEA)も理解していないのではないか。
悪口のようだが、高橋久仁子は近著「『食べもの神話』の落とし穴」でようやく若干葉酸に触れるようになった。が、こちらの本の内容はさらにたちが悪い。米国での栄養強化食品における葉酸の義務づけの意義にはほっかむりしくさるし、脂質栄養学会の提言と業界保護命厚労省との軋轢などもすらっとぼけていやがる。米国であれだけ問題になったトランス脂肪酸についても言及は無し。なんとことはない高橋久仁子のような学者が結局現代日本の食を混乱させているのだ。
余談が多くなったが、『免疫と腸内細菌』を手にしたときもあまり期待していなかったが、良い意味で期待は破られた。日垣隆のようにお勉強屋も悪くないかと思わせるほどだ。いくつか知見を得た。以下、文学書の批評でもないし、フランス現代哲学のデリダに関心があるわけでもないで、私がお得だと思った知見を列挙しておこう。
全身のリンパ球の60%は腸管に集中
それほど意外でもないじゃんと思えないこともないが、明確に数値として過半数を超えているのをこれまで熟知していかというとそうでもない。リンパ球がここに集中しているため、全抗体の60%も腸管で作られる。そういえば、『免疫革命』にはこうした言及はなかった。この事実が意味するものは、と考えると安易な結論を導いてはいけないが、腸官の状態は免疫に重要な意味を持つことがわかる。
食品アレルギーが起こるのは経口免疫寛容の異常
これも当たり前といえば当たり前だし、また、事実(現象)の反面しか捕らえていないのだが、それでも腸の経口免疫寛容が重要なキーになることは確かだ。それに、そのくらいにしか期待が持てない。そして、経口免疫寛容は腸内フローラの状況が関係しているらしい。詳細には経口免疫寛容でT細胞が抑制されるからなのだが、印象だが、その状況は悪機能することもあるだろう。
なお、経口免疫寛容に補足する。体に必要な異物に過剰な免疫応答を起こさないように抑制する仕組みが免疫寛容。腸管内の食物や腸内細菌に免疫寛容が起こることが経口免疫寛容。一般的に寛容のメカニズムは、3点ある。[1]抗原を認識するリンパ球が細胞死(アポトーシス)を起こす。[2]リンパ球が抗原を認識しても活性化しない状態をオンにする不活性化(アネルジー)。[3]抑制性T細胞の働き。
腸内有害菌は有益
ちまたの健康常識では善玉菌と悪玉菌といったゾロアスター教説が多いが、単純にそういう区分はできないようで、悪玉菌と呼ばれている有害菌は免疫の発現に関与しているらしい。
腸内フローラの状況は免疫が基本的に決定している
これの知見は少し虚を突かれたように思った。我々は通常、腸管を食物が通る管というくらいにしか思っていないしそれで間違いでもないのだが、そう考えるがゆえに腸内フローラを食品と関連付けて考えすぎていた。逆だ。このフローラのバランスは基本的に免疫側で制御されているらしい。もちろん、先に経口免疫寛容にフローラの影響があると書いたように、相互作用はある。詳細ではMHCが具体的に利用されているのには驚いた。
腸内菌はどこから来るのかわからない
トリビアの泉のような話だが、どうやらそうらしい。この問題は私も以前から疑問だったのだが、そう簡単には解けそうにもない。いずれにせよ、単純に腸内菌を食品として入れればいいわけでもないようだ。
結核菌がアレルギーを抑制する
これもどってことない知見のようだが、改めて考えなおした。20世紀の医療というのは基本的に結核との戦いであり、このこの歴史の真相は通常は抗生物質の勝利とされているが、実態は栄養状況にある。いずれにせよ、医学は結核撲滅で終わったのだが、その時点で成立した医療行政は変わらない。日本の厚労省がとくにひどい。
専門家でも日本の乳酸菌健康食品好きが理解できない
皮肉な命題にしてしまったが、なぜ日本で乳酸菌健康食品がこんなに発達しているのか理解できない、という率直な見解を読んで面白かった。恐らく、メチニコフ学説が日本に導入された時代を専門家にしても十分に知らないとしか思えない。批判しているのではない。日本人とメチニコフ学説はきちんと歴史的に整理しなくてはならない。だが、実際問題としてはヤクルトへの批判のように受け取られることもあり、実名ではやりづらい。唐沢俊一や荒俣宏にも期待できないし…。
以上で終わるが、この本は書籍としての編集がだいぶ入っているのがわかるという意味で力作だった。もっと期待したいこともあるので、この著者の本を読むことになるだろうが、個別には以下のことが知りたい。
- 北欧のプロバイオティックス研究の実態
- 腸内フローラと脂肪酸の関係(ありそうだ)
- ポリー・マッチンガーのお宝写真
もちろん、最後の要望は冗談である(ここにあった。参照)。
| 固定リンク
「書評」カテゴリの記事
- [書評] ポリアモリー 恋愛革命(デボラ・アナポール)(2018.04.02)
- [書評] フランス人 この奇妙な人たち(ポリー・プラット)(2018.03.29)
- [書評] ストーリー式記憶法(山口真由)(2018.03.26)
- [書評] ポリアモリー 複数の愛を生きる(深海菊絵)(2018.03.28)
- [書評] 回避性愛着障害(岡田尊司)(2018.03.27)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント