医師の名義貸し問題は単純ではない
朝日新聞社説「名義貸し――医師の倫理はどこに」は読んでいて不快になった。無知な正義は小さな悪よりたちが悪い。当の問題は、勤務していない医師なのに病院から報酬を受け取る名義貸しだ。時事的には、北海道でこの実態が発覚し、文部科学省が全国的な実態調査を指示したという背景がある。
朝日新聞社説はこう糾弾する。
しかし、「実態を伴わない勤務で報酬をもらうのは許されないこと」(遠山文科相)だ。名義を借りた病院が診療報酬を満額受け取るのも許される話ではない。
とくに問題なのは、教授を頂点とした医師の集まりである医局が組織的にかかわる例だ。不正を若手医師に強要するのは、教育機関としてあるまじき行いである。医師の職業倫理をどう考えているのだろう。
稚拙な正義だが好意的に見るなら、朝日新聞社説はこの糾弾の前に実態について多少考慮はしている。
各医療機関は医療法で、患者数に応じた医師の標準数が定められ、その6割以下の医師しかいないと診療報酬が減額される。一方、大学病院には無給や低い賃金で研究や診療を続ける若手医師が大勢いる。名義貸しで、医師不足の医療機関も大学の若手医師も経済的に助かるのである。
つまり、社会問題はこちらだ。大学の医局員は給料だけじゃ家族も養えない。この悪弊は、医者不足の医療機関と大学医局と利害調整できた実際上の制度だ。稚拙な正義を通すことで、医者不足の地域の病院がつぶれるだろう。
こっちの問題に対して有効な提言をしてこそ新聞社説として意味がある。制度をどう改善したらいいか、市民にわかりやすく展開すべきだろう。
加えて、なぜ「北海道」なのについて言及しなければ、ジャーナリズムとは言えない。こうした名義貸しの問題は北海道だけではないが、都市部ではすでにそうした現象は見られない。つまり、この問題は、都市化の過程で構造的に調整されてしまう傾向がある。構造的な問題は、むしろ、非都市部の医療の社会体制にある。
個人的な観点だが、もう一点視点を加えれば、大学の医局は医学の研究機関とし、医療はむしろ町医者のネットワークにすればいいのではないか。ここでは詳細に論じることができないので短絡的な表現になるが、いわゆる医療は20世紀の段階で収束している。社会的に必要な病気への対処は、基本的な看護の対処、通常の外科(軍医)、エッセンシャル・メディスン、加えて栄養指導でことが足りる。ただ、現代人の病気については、基本的に長寿化と非自然的な環境による免疫疾患なので、別の対処が必要になる。
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コメント
馬鹿言ってはいけない。
医師の生活が成り立たない?
医局の大学院生らは、週末の当直バイト代で30歳代前半で年収700万円近くもらっているではないか。
要は「医師だから低収入は受け入れられない」というくだらないエリート意識と、地方病院の放漫な経営が名義貸し問題の根幹にあるのだ。
名義貸し問題は単純だ。
投稿: (anonymous) | 2005.03.09 18:52
某国公立の大学病院医局に属している大学院生です。名義貸しを現在しています。自分の意思ではなく、医局長の命令で名義貸しを強要させられています。関連病院では架空の銀行口座を作らされ、常勤医としての額をもらっていることとなっていますが、実際はアルバイト料金を手渡してでもらっています。結局、診療報酬の不正な要求と脱税対策に利用されています。医局長に非常勤扱いにして欲しいと頼んでも無理でした。地方の大学病院では、まだこのような事が行われています。医局の組織の中にいると自分の意思は通りません。
投稿: 大学院生 | 2005.06.18 11:14