2017.01.13

レックス・ティラーソン次期国務長官がもたらしうる暗い世界

 さて、このブログ記事にどういうタイトルを付けるべきなのか、少し考えてみたのだがまとまらない。表題だけで読んだ気になる人の関心を引きたくはないし、かと言って、読む人には伝えたい。何を伝えたいのか? トランプ次期米大統領が国務長官に使命するレックス・ティラーソン氏がもたらしうる危機と言っていいだろうか。あるいは、その危機はすでにオバマ政権時代に必然的にレールが敷かれていたと言っていいのだろうか。
 レックス・ティラーソン氏って、誰? 11日に公聴会があったが、すでに書いたようにトランプ次期米大統領が使命する国務長官である。日本で言ったら外務大臣である。ようするに米国の外交をこの人が担うようになるし、世界の動向に大きな影響をもたらすことになる。
 どういう人かというと、エクソン・モービルCEOだった人である。現下における報道としてはWSJ「ティラーソン氏公聴会 5つの重要ポイント」(参考)が詳しい。
 重要なのは、2011年にロシア国営石油会社ロスネフチと事業歴史的合意を結び、ロシア国内および北極圏の原油・天然ガス開発ビジネスに道を開こうとしたが、2014年の対露制裁でこの頓挫したことだ。簡単に言えば、オバマ政権が潰した。これがトランプ政権で恐らく復活に近い方向に進むことになるだろう。
 陰謀論みたいな話をしたいわけではないので誤読しないでほしいのだが、トランプ政権とロシア・エネルギー・ビジネスの関連は昨年の春頃からある。トランプ氏はこの時点で外交政策顧問としてエネルギー業界コンサルタントのカーター・ペイジ氏を採用しているが、彼もコンサル以前には米投資銀行メリルリンチ社員としてロシアでエネルギー分野で働いていた。いずれにせよ、トランプ政権が見え出すころから、ロシア・エネルギー・ビジネスの影が付きまとっていたことは事実である。
 この動向が、ロシア・エネルギー・ビジネスに関わる一派の問題に限定されないというのがやっかいな問題になる。
 一番の前提は、北極圏のエネルギーがどうやら膨大であることがわかってきていることだ(参考)。二番目には、地球温暖化で北極海航路が開けることだ。
 この二点のメリットを一番受けやすいのは、実はこの航路からみてもわかるが日本であり、日本の対露外交に関連している。同時に、この航路は米国にも影響する。さらにこの航路は北方領土に関連しているし、この軍事的な意味合いも影響を受ける。
 メリットは同時にデメリットの可能性でもあり、まさにティラーソン氏が基軸となっていたロスネフチとエクソンモービルによる提携は北極海からメキシコ湾までカバーするもので日本のエネルギー戦略に不利になりえるものだった(参考)。
 こうした文脈で見ると、あたかも米国が今後北極圏のエネルギーに依存するかのような印象を与えるかもしれないが、実は米国自身がサウジアラビアやロシアに匹敵するエネルギー産出国に変わる(参考)。
 では米国は自国のエネルギーで十分なのではないかということになるが、現在世界のグローバル資本は、エネルギーがコモディティであることの基盤の上に、まさに全世界の資本主義活動の上澄みを吸い取ることで成り立っているので、米国としては、こうした動向(北極圏エネルギーの重視)を取るしかないということがある。
 話が込み入ってきたが、波及が2つある。1つ目はわかりやすい地球温暖化の話で、いわゆるリベラル派のガーディアン紙(参考)や朝日新聞など(参考)がこうした基調に飛びつきやすい。
 問題はむしろ、相対的にこれまで世界の原油を支えてきた中近東なかでもサウジアラビアへの米国関与が弱体することだ。この地域の秩序がさらに崩壊する。これがオバマ政権下ですでに進行していたことだった。
 オバマ政権は、実質イランとサウジアラビアの代理戦争であるシリア内戦に無関心だった。関与については、ドローンによる殺戮を強化するくらいだった。映画『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』は英国映画だが、この主題が問われるのはオバマさんでしょう。
 いずれにせよ、この動向がさらに進展していくだろうし、むしろ現在のシリア情勢がロシアの関与によってもっとも悲惨な形で「安定化」させられていくように、ロシアによる地域秩序の分担が起こるかもしれない。
 そのメルクマールは12日にポーランドに派遣された米軍の動向だろう。NHK「米軍 ポーランドに新たな部隊派遣」(参考)より。


この部隊は、ロシアによるクリミアの併合を受けてポーランドなど東ヨーロッパの軍事的な抑止力を強めようと、アメリカが新たに派遣したおよそ3500人の陸軍の地上部隊で、兵士や装甲車のほか戦車80台余り先週から随時ポーランド軍の基地に到着しています。

12日、西部ジャガンにあるポーランドの陸軍基地ではアメリカ軍とポーランド軍双方の兵士が参加して歓迎の式典が開かれ、ポーランド軍のミカ司令官は「今後、合同訓練を通してどんな任務にも対応できる力をつけるとともに、兵士の絆を深めることができると確信している」と述べ、アメリカ軍との活動に期待を示しました。

アメリカ軍地上部隊は、来月、ポーランドからバルト3国やルーマニア、ブルガリアなどにも移動して、合同訓練を行うことになっています。

これとは別にポーランドとバルト諸国には、ことし春までにNATO=北大西洋条約機構が合わせて4000人規模の多国籍部隊を配備する予定で、ロシアに隣接する地域で軍備が増強されることにロシア側がさらに反発を強める可能性もあります。


 皮肉なことにオバマ政権の最後に実現したのだが、起点は約3年前になろうとする2014年2月のクリミア危機にあった。対応に3年かかった。
 当然ながら、これはロシアを大きく刺激することになるが、実質的には、ロシアの暴走というよりNATO強化による西側の暴走(特に民兵組織)の抑止になるだろう。
 今回の米軍派遣は、9か月ごとの巡回だとして固定化であるこを修辞的に避けているが、トランプ政権の外交手腕はまずこのあたりで大きな方向性が見えてくるだろう。
 恐らくは、とても暗いものになるだろう。


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2017.01.05

OPLAN 5029?

 韓国政治が麻痺していくなかで同国の安全保障がどのようになっていくか、さらに言えば朝鮮有事の懸念は、隣国の日本にとっても意味があるし、また軍事同盟国である米国を介しての関連もある。ごく簡単に言えば、韓国内政が混乱していけば朝鮮有事の懸念が高まる。
 その場合、韓国側の憂慮としては国境を接していることもあり、北朝鮮からの地上軍や近・中距離ミサイルの攻撃、生物・化学兵器攻撃を受ける可能性がある。米国の懸念について言えば核弾頭であろうが、北朝鮮が米国を核弾頭の範囲に収めるにはまだ時間がかかる。また、日本については核兵器による威嚇はあるだろうが、そもそも日本を攻撃するメリットがあるとも思えない。すると北朝鮮の核兵器については、それが実質的な脅威となるというよりも実行されること自体の国際秩序の問題であるとも言える。そこでその秩序と北朝鮮レジームの価値を計ると、そのレジームは米国主導の国際秩序としては廃棄されるべきものとなるだろう。
 さて、どうなるものかと見て行くと年が明けて、今日動きがあった。二年前倒しの韓国軍特殊任務旅団の設立についての韓国国防省の発表である。読売新聞「韓国「正恩氏攻撃旅団」創設へ…有事に平壌侵入」(参照)より。


同省が大統領代行の黄教安ファンギョアン首相に行った今年の業務計画で明らかにした。特殊任務旅団は、北朝鮮が核ミサイルを発射する兆候がみられた時などに平壌に侵入し、作戦指揮を執る正恩氏らを攻撃し、指揮系統をマヒさせる。朝鮮半島有事の対応をめぐっては、北朝鮮の核兵器やミサイル基地を探知して先制攻撃する「キル・チェーン」と韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)も20年代初期に完成させる予定で、同省は「能力を拡充する」とした。

 明確に書かれていないが、先制攻撃であり、いわゆる「斬首作戦」である。東亜日報「金正恩掃討特殊部隊、2年操り上げて今年創設」(参照)が詳しい。

韓国軍当局が今年創設する特殊任務旅団(特任旅団)は、有事の際、北朝鮮の戦争指揮部を掃討する作戦を担うことになる。核兵器発射命令権者である金正恩(キム・ジョンウン)労働党委員長など核心指揮部を掃討して戦争遂行能力を麻痺させることが主な内容だ。

軍関係者は4日、「昨年9月、北朝鮮の5回目の核実験直後に発表した大量反撃報復(KMPR)の一環」と明らかにした。KMPRは、北朝鮮の韓国侵略や核攻撃の兆候がある時、精密誘導兵器や最精鋭特殊部隊で金委員長など核心指揮部を先制攻撃する概念だ。

軍は、陸軍特殊戦司令部や海軍の特殊戦旅団(UDT/SEAL)、空軍の戦闘管制チーム(CCT)など各軍特殊部隊を改編し、特任旅団を編成するという。当初、軍は特任旅団を2019年に創設する計画だった。しかし、北朝鮮の核・ミサイルの脅威が日増しに高度化し、創設時期を操り上げることを決めた。


 当然懸念されることだが、「北朝鮮の韓国侵略や核攻撃の兆候がある時」の判断がどのようになされるかは報道からは判然としたない。
 また米軍との関わりはこれらの報道からはわからない。聯合ニュース「軍が特殊任務旅団新設へ 有事に金正恩氏を攻撃=韓国」(参照)は少し言及がある。ただしこれは、斬首作戦との直接的な関連ではない。

 このほか、米新政権発足初期の対北朝鮮政策と韓米同盟に関わる懸案をめぐり韓米間の調整が必要だとの見方も示した。米国とは高官レベルの交流、国防・安保機関との人的ネットワークを強化しながら在韓米軍駐留経費負担(思いやり予算)、韓米連合軍司令官(在韓米軍司令官兼務)から韓国軍への有事作戦統制権の移管など懸案を安定的に管理する計画を示した。

 また、日本とは互恵的な軍事協力を進めながら情報協力を拡大し、中国とは米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の在韓米軍配備に対する韓国側の立場について説明しながら意思疎通を図るとした。


 全体的に見るなら、特殊任務旅団の繰り上げは対北朝鮮と韓国国内への、安全保障上のメッセージというだけにとどまっていて、具体的な段階とは見えない。
 今日のこのニュースで気になったのは「OPLAN 5029」(参照)との関連である。
 朝鮮有事について米軍は、北朝鮮からの先制攻撃に備えるOPLAN 5027と、偶発用のOPLAN 5029がある。OPLAN 5029についての比較的最新の動向については、参照リンク先にあるので関心がある人は読むといいだろう。
 それでどうなのか。米軍のOPLAN 5029は韓国軍の特殊任務旅団と関連があるだろうが、その関連がよくわからない。基本的に、朝鮮有事では米軍による韓国軍への有事作戦統制権が重要になるが、これが現状ぐだぐだになっているせいだ。当初は、2015年に移管が予定されていたが延期され、2020年代半ばまで延長されることなっている。
 論理的に考えるなら、特殊任務旅団の活動は大枠で米軍の有事作戦統制権の下に置かれるはずだが、報道を追う限りは判然としない。
 そうしたなか、今日のCNN「Preparing for the worst / How to escape from Kim Jong Un」(参照)も興味深かった。表題は、「最悪の事態に備える。金正恩からの逃げ方」である。朝鮮有事の際、米軍家族が韓国を脱出して沖縄に非難する訓練をレポートしている。
 まさに掲載されている動画や写真を見るとまさに朝鮮有事を連想させるとともに、アイロニカルにではあるが演習に楽しむ子供の姿も微笑ましい。個人的な印象でいえば、朝鮮有事のとき、米軍家族はこうして沖縄にペットと一緒に救出されるのだろうが、軍家族以外の被害は悲惨なものになる。軍家族のペットが一般市民より軍としては優先的に救出されるのかもしれない。
 なお、同記事は抄訳が「在韓米軍、沖縄へ家族脱出の避難訓練 北朝鮮の侵攻に備え」(参照)にあるが、かなり削られているし、原文には写真・図もあるので一見しておくとよいだろう。

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