2019.12.10

ドイツの戦争責任についての雑感

 日本共産党委員長の志位和夫さんが、共同の記事『独首相アウシュビッツで過去謝罪「この責任に終わりはない」』を引用して、8日に次のようにTweetしていた。

加害国として「この責任に終わりはない」とのべる独首相。
加害国として「性奴隷という言葉を使うな」と被害国を恫喝する安倍首相。
この落差を、対米英開戦78周年の日に痛感する。加害国が、戦争責任・植民地責任に向き合う姿勢をとり続けてこそ、本当の和解が訪れる。
午前10:17 · 2019年12月8日·Twitter Web Client

 『加害国として「この責任に終わりはない」とのべる独首相』の『加害国として』という部分だが、共同の報道にそのような内容が含まれているのだろうか、と気になった。該当の報道は次のようになっていた。

【ベルリン共同】ドイツのメルケル首相は6日、第2次大戦中にナチス・ドイツによるホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)の舞台となったポーランド南部のアウシュビッツ強制収容所跡を初めて訪れた。加害国の首脳として犠牲者を追悼し「虐殺を行ったのはドイツ人だった。この責任に終わりはない」と演説、過去を謝罪した。
 在任中にアウシュビッツを訪れたドイツ(西ドイツを含む)首相としてはシュミット氏らに続き3人目で、収容所跡の維持や管理を担うポーランドの財団の招きに応じた。アウシュビッツは来年1月、ソ連軍による解放から75年の節目を迎える。

 形式的にではあるは、『加害国として』という文言ではなく、『加害国の首脳として』であった。些細な差のようにも思えるが、『加害国として』となると、ドイツ国家としてということになる。後者であれば、メルケル首相がドイツ人を代表して個人的な思いを述べたと受け取れないこともない。
 広義には、ドイツは国家としてどのように戦争責任に向き合っているか、という問題になる。そして戦争責任の責任の実体は、謝罪の文言もだが、具体的な戦後補償のありかたとなる。
 前提となるは、1956年の連邦補償法だろう。ナチスが行った迫害に対する被害者の個人請求を定めたものである。ドイツ国家が加害国として被害国に向き合ったものではない。とはいえ、一括協定になるのだが、その対象国は国民のための賠償請求権を放棄している。
 ドイツが当時、国家としての体面が取れなかったのは理由がある。分断国家では講和条約が締結できず、1953年のロンドン債務協定により、戦争相手国(被害国)との賠償問題は統一国家樹立後の平和条約が締結されるまで保留された。
 統一後はどうか。ここが難しい。Wikipediaの『第二次世界大戦後におけるドイツの戦後補償』を借りるとこう。

最終規定条約による賠償問題の「解決」
 1990年9月12日のドイツ最終規定条約により、ドイツの戦争状態は正式に終了した。この条約には賠償について言及された点は存在していないが[54]、締結に際して連邦政府は「賠償問題は時代遅れになった」とはっきり説明し[55]、もはや賠償問題は提起されないという立場をとっている[56]。
 この最終規定条約はロンドン債務協定で規定された「平和条約」であるとドイツ連邦共和国政府はみなしていないが[54]、賠償問題をも含む戦争から生じた法律的問題の最終的解決を含むものとしている[57]。ドイツ政府は、賠償問題が終結したことの理由として、50年に及ぶ諸外国との信頼協力関係の構築、そしてデモンタージュや生産物の接収、対外資産の没収等による支払額が、ポツダム会談での見込み額100億ライヒスマルクを遥かに超えていることと西欧12カ国による包括的な補償協定により、給付移転がすでに行われていることを根拠としている[57]。最終規定条約は全欧安全保障協力会議の参加国によって11月11日に承認され、ドイツはこの参加国に対しても賠償問題は終結したとしている[57]。
 このため統一後のドイツは、「ドイツの戦後問題」が最終的に解決され、「賠償問題はその根拠を失った」[57]として、法的な立場からの賠償を認めていない[58]。しかし、アメリカ政府が2000年に賠償請求の問題は未解決であるという見解を示したように、他国からは異論もある[59]。

 Wikipediaなのでこの記述にどれだけ信憑性があるかわからないが(参照された文献を読むことは可能だが)、1つ示唆的なことがある。先日のギリシアとの問題である。朝日新聞『ギリシャ首相、ナチス占領の賠償金に期待 独首相と会談』より。

 ギリシャで7月に就任したミツォタキス首相が29日、ベルリンを訪問してメルケル独首相と初めて会談した。ギリシャはドイツに対し、第2次大戦中のナチス・ドイツの占領下で受けた損害に対する巨額の賠償金を求めている。ミツォタキス氏は、経済危機からの脱却に必要なドイツからの投資を求める一方、国内でくすぶる「戦後補償問題」の進展にも期待感を示した。
 ミツォタキス氏は会談後の記者会見で、賠償金請求問題について「難しい問題だが、解決が両国関係の深化にとって重要だと信じている」と述べた。ただ、会談でこの問題を協議したかは明らかにしなかった。
 ドイツは、ギリシャと1960年代までに補償協定を結んでおり「解決済み」の立場だ。しかしギリシャ国内では「歴史問題」として残っており、チプラス前政権下の今年4月、ギリシャ議会はドイツに賠償金を求めることを可決。当時ミツォタキス氏が党首だった最大野党「新民主主義党」も賛成した。同国議会は、賠償金の額は3千億ユーロ(約35兆円)以上になると試算している。

 朝日新聞記事では「1960年代までに補償協定を結んでおり」とあるが、西ドイツの連邦補償法を指していると思われる。とすると、統一ドイツとして、被害国と公式な平和条約が締結されているかは判然としない。ドイツとしては自国の最終規定条約をそうみなしているに過ぎない。
 詳細な点や正確な議論がよくわからないが、概ね、ドイツは、戦争の加害国として被害国に十分に責任を取っているとは言えないのではないだろうか。
 複雑な背景は、2つあるだろう。1つはすでに述べたように、長く分断国家であったことだ(東ドイツとソ連の関係も複雑)。もう1つは、あまり言及されていないかもしれないが、ナチスのドイツは戦後、国家として解体され、消滅したことだ。ナチスの国家は正式に消滅しているので、現在のドイツが継承国家としての地位を持つか不明である。
 ナチス政府は建前は民主主義的に成立していて、最終はヒトラーから後継指名を受けた海軍総司令官カール・デーニッツ元帥による通称、デーニッツ政府(Regierung Dönitz)となった。だが、連合国はデーニッツ政府を承認せず(デーニッツは捕虜)、国防司令部ヨードル大将が降伏文書に署名した。軍の降伏であり、政府は関与していない。余談だが、日本の降伏では軍と政府が関与している(日本国家は消滅していない)。
 1945年6月5日のベルリン宣言で連合国がドイツの主権を掌握したことで、当時のドイツ国家(政府)は消滅した。つまり、ドイツ国は、「1871年1月18日から1945年6月5日」ということで歴史の彼方に消えた。現行のドイツはドイツ連邦共和国という別の国である。
 こうした歴史背景を見ると、現在のドイツは加害国としては戦争責任を負えないのではないだろうか。
 他方、日本は第二次世界大戦で国家消滅していないので、加害国としては戦争責任を負うことができる。日本共産党委員長の志位和夫さんは、ドイツを引き合いにせず、日本国の戦争責任を問うほうがよかったのではないだろうか。あるいは、今後のドイツの賠償問題の動向を見てから言及しても遅くはなかったかもしれない。

 

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2019.12.09

WTO、運命の日は12月10日

 ろくでもない事態になることがわかっていて、どうにもならない、というのが現実というものだろうし、歴史の真なる姿というものはそういうものなのかもしれない、と呑気なこと言ってられない事態になった。12月10日がやってくる。WTO(世界貿易機関;World Trade Organization)が国家間の紛争解決で機能不全になる。ごく簡単に言うと、WTOが明日死ぬ。日本時間だと明後日だろうか。残念だったなあ。
 ニュースを確認にしておく。NHKニュース『WTO 紛争解決で初の機能不全に 委員選任 米の反対で難航』より。

 WTO=世界貿易機関は10日、貿易紛争の解決が1995年の設立以来初めて、機能不全に陥る見通しとなりました。アメリカの反対で、紛争解決にあたる委員が選任できないためで、貿易をめぐる各国の対立は一層激しくなりそうです。
(中略)
 貿易をめぐる対立が加盟国どうしの協議で解決できない場合、まず1審にあたる小委員会で審理されますが、結論に異議が出された場合は、最高裁判所にあたる上級委員会が法的拘束力のある最終的な判断を下します。
 上級委員会の裁判官にあたる委員の定数は7人ですが、任期が切れたあと、欠員が埋まらず、最低限必要とされる3人の委員で紛争解決の審理を続けてきました。
 しかし、10日にはさらに2人の任期が切れて委員は1人だけになり、必要な人員が確保できなくなります。
 この結果、WTOは1995年の設立以来初めて、上級委員会の機能が停止する見通しとなりました。

 NHKの報道には含まれていないが、10日、上級委員会のウジャル・バティア委員長(インド)とトーマス・グラハム委員(米国)の任期が切れる。
 どうなるのか?
 例えば、日本は韓国による福島産の水産物の輸入禁止は不当としてWTOに提訴し、一審では主張が認められたが、上級委員会の最終判決で敗訴した。今後、この上級委員会がなくなる。この問題で言えば、日本がもう少し時間伸ばしでもできれば、日本の勝利だった。あれ? なんか問題なのか、それ。
 韓国関連で言えば、先日韓国は土壇場でGSOMIA破棄を停止し、また日本による韓国向け輸出管理措置の見直しについてもWTOへの提訴手続きを一時停止した。が、こじれ、その後どうなるかで、まあ提訴しても、もう一審で終わるしかない。たぶん、日本が勝つのではないだろうか。ということなのか、そういう可能性も韓国は読まなくならなくなったようだ。
 珍妙な例を引いたが、上級委員会の機能が停止しても、無問題なんじゃない?という視点があることに気がついてほしかった。
 では、それでいいのか? 
 よくはないだろう。現状、一審案件の約7割が上級委員会に上訴されているくらいで、二審制であることに意味がある。とはいえ、すでに、上級委員はもとの7人から3人まで削られていて先のような奇妙な決定を出すに至った(本来なら一審の事実認定を踏まえて二審が行われる)。しかも、鈍い。悪くいえば、すでに死んでいたのが、これからきちんと死ぬということだろう。
 この事態を引き起こしたのは言うまでもなく米国であり、米国の思惑は、言うまでもなく、中国への不満である。米国は上級委員会が中国びいきのように捉えていた。
 どうしたらいいか?
 WTO改革をするしかないだろう。制度を変えるほうがいい。二審へのフィードバックは必要だろう。いずにれせよ、これで米国をまた国際的な枠組みに取り込むほうがいい。日本としては米国に追従しないためにも、WTOのような国際機関を錦の御旗にするほが面目がいいには違いない。
 が、米国の取り込みは実際には無理だろう。それが現在世界の状況認識でもある。日本も実際にはそれほど困ることもないのではないか。
 臨時体制にするかという提案もあるようだが、死ぬに任せるしかないだろう。そもそも、WTOの歴史的な役割も終えたのかもしれない。

 

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