2019.05.22

Maritaという単語を知ってますか?

 Maritaという単語を知ってますか?
 そう、質問はそれだけ。
 ググってみよう、現代人だからね。うぁお、ニックネームとかペンネームみたいのがザクザク出てくる。ということは、固有名詞扱い。普通名詞だとどうかというのはわからない。というか、そもそもこれ、どこの国の言葉?という問題もあるからな。
 歴史を学んだ人なら、1941年4月6日にドイツ軍がブルガリアを経由してギリシャに侵攻した軍事作戦「マリータ作戦(Unternehmen Marita)」を知っているだろう。なぜそう言うのか? ちょっと調べたがわからない。
 固有名詞としては人名に多い。女性というのは語感から感じられる。アイルランドや英国に多いらしい。そのあたりを探ると、ノルウェー語らしく、その起源は、Margaretaと同じようだ。
 ところで、では、Maritoという単語を知ってますか?
 これは、イタリア語で「夫」という意味。その起源は当然、ラテン語で、語源的には、marītus で、「結婚の」ということ。「結婚した男」なら、当然、「夫」だよねということになるのだが、はて?と疑問が浮かぶ。maritoは男性形だから、maritaという女性形があっていいし、意味は「妻」になるはず。
 ところが、イタリア語で「妻」はmoglieという。こっちの語源は、ラテン語のmulierで、意味は女性。というか、あれ、この単語見るとわかるけど、スペイン語のmujerでしょ。で、さらにそのラテン語の起源は、mulgereで、乳搾りらしい。女が家畜の乳搾りをするのか、乳を与える者か、よくわからない。
 いずれにせよ、イタリア語で、夫はmaritoだが、妻はmoglieということになる。が、じゃあ、イタリア語でmaritaというとどうなるのか?
 ネイティブに聞いてみた。
 妻という意味で、maritaは使いません、とのこと。冗談ならあるかもしれません、とのこと。なお、maritareの活用形三人称現在では同形なのであるにはある。
 そして、ラテン語にはありました、とのこと。
 え?!
 調べてみると、ラテン語ではそう言っている。「妻」の意味がある。
 ということは、俗ラテン語で、maritoが消えたのだろう。そして、mullerのほうが優勢になった。
 フランス語には、おもしろいことに、「妻」という言葉が事実上ない(epouseはあるが、日常語とは言い難いだろう)。で、ma fammeになる。「俺の女」ということ。で、俗ラテン語が優勢だった時代の、つまり、ローマ法的な市民の婚姻がなくなると、「妻」という概念そのものが消えたたんじゃ、なかろうか?
 ところで、調べていたら、maritaを採用する言語があった。一種のロマンス語である。Interlinguaである。「インターリングワ」。人造語である。
 インターリングワは、ロマンス語の共通項を実用的につなぎ合わせた、いわば、現代版、リンガ・フランカなのだが、これだと、たしかに、maritaを採用したくなるんだろうな。

| | コメント (0)

2019.05.21

[書評] イタリア語の起源 歴史文法入門

 たぶん、イタリア語の起源に関心を持つ人はそれほど多くはないだろうし、まして、このブログを覗く人にそういう人がいるか、おぼつかないが、おそらく、ある程度まで英語に関心ある人なら、『イタリア語の起源 歴史文法入門』を読んでおいてもいいのではないだろうか。

 

 そう思えるのは、語彙の変化もだが、ラテン語から俗ラテン語、そして、イタリア語へと変化していく母音のありかたが、大母音推移に似ているように見えたことだ。歴史的な関係はないのだが、大母音推移のような現象は英語でのみ起きた特殊な現象ではないのではないかと思えた。補足するなら、古英語にも母音には短母音と長母音があり、これらはラテン語の母音と似ている。
 もっとも、大母音推移がまさに大母音推移であるような、調音までの遷移はイタリア語ですら発生していない。むしろ、そのことがなぜかという問いにもなるだろう。
 他方、俗ラテン語の影響を受けたはずのフランス語にはこうした現象はほとんどないといってよいが、古フランス語と言えるような言語では短母音と長母音の対立はなかっただろう。また、フランス語の語末の脱落についても特殊なものかもしれない。
 いきなり専門的なところに突っ込んでしまったが、一般にイタリア語やフランス語などの言語の歴史については、ロマンス語という枠組みで一括的にあるいは、その枠のなかで通時と共時が曖昧に記述されがちなのだが、本書は、イタリア語に絞り、また、その方言差を扱っているので、むしろ、俗ラテン語の特性がわかりやすかった。塩野七生の著作でも、ローマ時代にすでに口語では現在のイタリア語に近い俗ラテン語のような言語であっただろうという示唆があったが、そうした視点も本書で考えさせらるものだった。
 あと実は、フランス語がイタリア語から派生したのではないか、そういう疑念が深まるような特徴がわかるのではないかと期待して読んだのだが、そこは逆に難しい問題なのだということがわかった。驚いたのだが、フランス語のmangerは、イタリア語のmangareからできたと思っていたのだが、逆だったのである。仏伊語の相互関連はかなり難しい。
 本書は翻訳書だが、監修者の岩倉具只氏の日本語版の序がよくまとまっていている。なかでも、イタリア語がダンテなどの書き言葉を基本にできたという話は興味深い。残念ながらこの部分についての本文での説明は薄いのだが、それでも、リンガ・フランカというものについても考えさせられた。本書では、コイネーとして扱われている。
 本書での言及はそれほど多くはないのだが、このコイネーの成立には、十字軍も関連しているのだろう。
 現在学び始めているイタリア語にある程度めどがついたら、ラテン語にもういちど挑戦してみたい気がする。

 

| | コメント (0)

«クックパッドの本のレシピを受け入れる