お笑いコンビ「次長課長」の河本準一さん(私はこの人全然知らないのだけど)の母親に生活保護費が不正受給されていたのではないか、とする疑惑問題がツイッターで沸騰していた。何かが発動しているんだな、なんなんだろうかと、蟻の生活を観察するように(参照)眺めてみた。よくわからないせいか、自分の印象は浮きまくった。うむ。だったら異論の一つとしてブログに書いてみてもいいんじゃないか。ごく簡単に書いてみたい。
当の疑惑問題だが、NHK的にはこうまとめていた。「河本準一さん 生活保護費返還へ」(参照)より。読むとわかりやすい口調でありながら、「それって不正なの?」という構図は、いい案配にボカされている。
この問題は、テレビや舞台などで活躍する河本準一さんが一定の収入があるにもかかわらず、母親が生活保護を受けていると、先月、週刊誌で報じられ、批判されていたものです。
河本さんは25日、東京都内で記者会見を開き、母親が生活保護を受けていた状況について説明しました。
それによりますと、河本さんの母親は15年ほど前に病気で働けなくなりましたが、河本さんは当時、年収が少なく、養うことができなかったため、母親が生活保護を受けるようになったということです。
その後、河本さんがテレビなどで活躍するようになると、福祉事務所から母親に援助できないか相談を持ちかけられるようになり、5年ほど前からは河本さんが生活費の一部を援助し、その分、生活保護費が減額されていたということです。
今回の話の発端は、サイゾーというネット媒体と女性セブンという週刊誌で今月上旬あたりで話題となり、その後、片山さつき議員と世耕弘成議員が関心を持って話を膨らまし、週刊新潮でも小ネタで扱われたという経緯のようだ。5月11日の時点の電凸話がユーチューブにあり(
参照)、その時点の空気を残している。
不正受給なのか?
現状の報道からは、不正受給とは言えそうにない。つまり、違法性は確認されない。NHK報道ではこう言及されている。
河本さんは「福祉事務所と話し合って決めていたので、母親が生活保護を受けていることは法的には問題ない」という考えを示したうえで、「芸人は収入が不安定なため、今は高い収入があっても母親の生活保護を打ち切ることはできなかった。甘い考えだったと深く反省している」と謝罪しました。
河本さん側としては、違法性はないとして、しかし、「甘い考えだったと深く反省」したというのである。
ツイッターなどでは、「違法性がないなら謝罪する必要はないではない」「生活保護は堂々と受ければよいではないのか」という意見が沸騰していた。さらに、「こうしてメディアで河本さんを吊し上げるのは、魔女裁判であり、メディアによるリンチだ」という意見も流れていた。
違法性はないのだから、それはそうなんだろう。
では、河本さんの意識としては何を謝罪したのか?
実はそこが、よくわからない。現実が認識されず沸騰するのが昨今のネットだからというのもあるのだろうが。
「法的な責任はないが、有名人として道義的な責任はある」みたいな理解がなんとなくされているが、そう理解する根拠もない。これが今回の問題と騒ぎの一つの軸になっている。
謎の謝罪に関連して、返金の示唆がまた謎である。
また、母親は先月から生活保護の受給をやめたということで、河本さんは今後、福祉事務所と話し合って、母親が受け取っていた生活保護費の一部を返金す るということです。
ここも疑問点である。不正でないのに、生活保護費の一部を返金するということがどういうことなのか。別の言い方をすると、返金はどういう名目になるのか。
ツイッターで疑問を出したら「寄付」という答えを得た。福祉事務所に寄付ですかというと、「総務省」とのことだった。民主党政権下で思わぬ行政改革が進んでいるのかもしれない。それはさておき。
いずれにせよ、返金がどのような名目となるのかはわからない。「貰いすぎたのだから、返せばいい」というふうに一見すると理解できそうに思うのだが、だとすると、「貰いすぎた」という判断が前提となる。
すると、不正ではないけど、貰いすぎたということになる。よくわからない。しいて考えれば、福祉事務所のミス・落ち度ということになるだろう。
だとすると、謝罪すべきは、福祉事務所、ということではないのか。ますますわからない。
不正受給の疑いはないのか?
福祉事務所が了解していた以上、現状、「不正受給ではない」としか言えないようだが、それをもって疑念はすべてぬぐい去れたかというと、ここに奇妙な問題がある。結論からいうと、どんなに疑念があっても、解消できない仕組みになっている。
まず疑念だが、この事態で「不正」はどこで判定されるのかというと、河本準一さんの所得である。そして、福祉事務所に開示されている河本準一さんの所得からは、不正はないと判断されてきたということである。
疑念は実は、不正受給ではなく、福祉事務所に開示されている河本準一さんの所得は正確なのか?という点にある。
豪奢な生活ぶりではないか、福祉事務所に開示されている以上の収入があるのではないか、という疑念から発したものだ。売れない芸人のままなら、疑念もないし、所得が正確に公開されていても疑念はない。
繰り返すと、不正受給は波及であって、論点は、福祉事務所に開示されている河本準一さんの所得は正確なのか?という点にある。
この問題についてだが、河本準一さんには福祉事務所以外に開示する義務はない。プライバシーの問題である。よって、この問題はここで簡単にデッド・ポイントに達する。
ところが今回問題になったのは、国政調査権を持つ国会議員二名がこの疑念に首を突っ込んだからだ。つまり、国政上の調査対象であることが暗黙にちらつかされたことがある。市民的に考えれば、一時期豪奢な生活をしてようが芸能人の所得が国政上の問題になりうるわけもなく、権力の不当行使にしかならない。そのあたりは二議員も心得ているために、曖昧に影響力を行使していた。
同時にこの問題は、実は機構上は河本準一さんの意志のように見えるが、河本準一さん自身はこうした経理方針を熟知しているわけもなく、現実の収入の開示については、ようするにその部分を担っていた吉本興業の子会社クリエイティブ・エージェンシーの問題だった。端的にいえば、吉本が問題だった。
以上の背景から、二議員に吉本興業の代理人弁護士が訪問していた(参照)。片山さつき氏はこう語っている。事実関係についての疑念はないとしてもよいだろう。
片山さつき氏(以下、片山) まず、最初に先方に確認したんです。「今回、私のほうから、(吉本さんを)呼んだわけではないですよね」と。5月2日(※片山議員が、自身のブログで、今回の問題を追及する旨を報告した日)の夜遅い時間に、吉本の代理人弁護士から私の携帯電話に直接「河本さんの一件で説明したい」という連絡をいただき、受給を認めた上でいくつか理由のようなことをおっしゃるので、「その説明ではとても納得はできない」と伝えたら、日を改めて議員会館に伺いたいと先方がおっしゃった。翌日から私は米国出張だったんですが、「では、6日に帰国してから時間設けますから、できるだけ早くご連絡いただければ、こちらも対応します」と答えたところ、帰国後もなかなか連絡が来ない。で、やっと返事が来て、いくつか希望日を出されてましたが、いちばん早い18日に私と世耕さんが万障繰り合わせて対応しました。つまり、こちらとしては事情説明があるなら、一刻も早く聞こうという姿勢で対応したんです。18日にお会いした時、「なんでこんなに遅れたのですか?」と聞くと、「誰が行くかなどを調整していました」と言っていましたね。
吉本の弁護士側はどう対応したか。議員を信頼して内密に河本準一さんの収入の開示があっただろうか。
――収入については所得証明や納税証明などの証拠書類は提示してきたのですか?
片山 そういうものは一切持ってこなかったですし、口頭でも「年収はいくら」という具体的な開示はなかったですね。あと、福祉事務所から毎年一回、河本さんに電話で「仕送りをもう少し増やすなりできないか」などの照会があったそうで、そのたびに「今はまだ無理」と対応していたそうです。福祉事務所からは電話だけだったのかと聞いたら「そう聞いています」と。一回だけ仕送りを増額したと言っていましたが、その額も具体的には言いませんでした。
――せっかくの説明の機会だったのに、証拠書類も出さずに、正確な数字も把握していなかったと。
片山 とにかく具体的な提示はなかったし、我々を納得させる新しい材料もなかったですね。所得証明はないのかと聞くと黙ってしまうし。あと、母親以外に他の親族の面倒も見ていて、その親族が海外で治療を受けなければならなくて、それに多額の費用がかかるんだという話を、最初に電話がかかってきた時に弁護士から説明を受けたわけなのですが、「その方は河本さんにとってどういう立場の方ですか?」と聞いたら、「私はそんなことは言ってない」と言う。「いや、聞きましたよ」と言ったけど、「言ってない」と言う。「でも録音記録に残っていますよ」と言うと、また黙ってしまう。もしかしたら、吉本や弁護士側も情報が取れていないのかもしれませんが、都合が悪いことは黙るという繰り返しでしたね。結局、今回の説明でも「不正受給ではなかった」と我々が納得できる材料はなかったので、「本件は黒ではなくグレーということはあっても、『白』ということはできません」と申し上げました。引き続き、この問題は追及していくことになります。ただし、報道されているように、世耕さんが「道義的責任をとって、全額返済すること」を提案し、それを持ち帰ったので、その返答にもよりますが。
かくして国会議員への、河本準一さんの所得の開示はなく、二議員は「不正受給」の疑惑を残した形になった。
まとめると、所得が開示されず「不正受給」の疑惑は残る、としたのが国民の代議士である以上、国民にも疑問は残る。
もう一点、片山氏の証言で興味深いのは、福祉事務所の対応の不備の疑惑である。
謝罪会見は何を意味していのか?
謝罪会見前の状況としては、国会議員が権力をちらつかせて所得開示を迫るが、吉本側はそれを拒むという緊張した状態にあった。
この緊張は継続することで両者にダメージも与えることになる。国会議員側としては不当な権力行使に見えるし、吉本側では経理上の不正の疑念が増していく。どこかで手打ちをする状況的な圧力が増しており、それが、結果として今回の謝罪会見となった。
手打ちの様式は片山氏の証言のなかで指示されていた。
引き続き、この問題は追及していくことになります。ただし、報道されているように、世耕さんが「道義的責任をとって、全額返済すること」を提案し、それを持ち帰ったので、その返答にもよりますが。
二議員側としては、「道義的責任をとって、全額返済すること」を吉本側が飲めば、事態は納めるということである。露骨にいうと、これ以上、吉本への追究はしないという約束だったと言ってもいい。
かくして、お笑い芸人に吉本側から泣きの演出の依頼が出て、この謝罪会見となった。吉本の所業を一身に背負って磔刑ともなれば、相応のご利益も期待できそうに見える。
問題の意味はなにか?
今回の問題の経緯はそれだけのことで、緊張する両者は手打ちとなって終わった。
生活保護費の不正受給という問題でいうなら、今回の事例は、そもそも問題ですらない。
生活保護費の制度には不正受給が付きものなので、制度設計の当初から組み込まれている。実際、この制度の不正の率は異様なほど低い。
なにより最大の不正抑止として、そもそも受給が少ないということがある。こんな少ない額で生活保護になるのかと平成生まれの人が疑問に思うだろうが、戦後日本人の歴史体験として、死活問題は貨幣経済じゃなかったというのがあった。現在でも農業が維持されている地方で暮らしてみるとわかるが、貨幣がそれほどなくても生きていける。別の言い方をすれば、高度成長期に農村から都市に出た人間は失敗したら農村に帰れ、という指示でもあった。
その制度が特定の技能集団でしか利用できなくなるまでに進化し、現実に困窮している人にも対応しなくなっている。
今回の事例でいうなら、吉本側としては従来どおりのお約束で進行しているのに、「なにこの議員、わかってねーの?」ということだ。自民党が政権与党なら、それなりに「ここは、まあ、わかれよ。吉本っていうのはそもそもなぁ……」の仲裁が入ったものだが、没落した現状の自民党では無理。
同時に没落した自民党としても、このまま昭和な世界に浸かって復活する見込みもないのだから、制度の改善は提案したいし、財務省側はかねてより、国民の所得を捕捉する制度を欲している。これ、いいじゃないか、と食ってみたという話。
では、制度をなんとかしたらということもある。それだけいうと正義のようだが、今回の事態の核心のように、そもそも現行の制度では所得の捕捉ができないし、その制度の見込みもない。それがどのくらい絶望的なのかは、消費税増税に伴う所得ベースの補償もできないことからわかる。
もっとも、片山・世耕議員に対して、困窮者を虐めるなとここぞとばかりに批判する側も、国民の所得捕捉の制度が必要だとは言えない弱みでもあるような振る舞いしかしていない。