2019.06.18

金融庁の問題報告書を読んでいたら、変なことに気がついたの巻

 昨今の話題の「年金2000万円足りない」問題の火元である、『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書』(副題は「高齢社会における資産形成・管理」)を読んでいて、変なことに気がついた。まあ、変というのでもないのかもしれないが。
 何が変かというと、いくら資産を形成しても最終的には、足りない分は、「資産取り崩し」になるというのは前提認識になっている。例えば報告書でもこうある。

 老後の生活においては年金などの収入で足らざる部分は、当然保有する金融資産から取り崩していくこととなる。

 すでに長期・積立・分散投資を現役期より行っている場合は、それを続けられるうちは続け、その後は計画的に資産を取り崩していくことが有効である。

 ところが、「取り崩し」についてキーワード的にだが報告書で言及されているのは、この二箇所だけ。この報告書には、「取り崩し」にどう対応するのかという話が実質ないのである。
 なんだろこれ?と思って、仕切り直しされた審議会議事録を読んで見て、まあ、だいたいわかった。「取り崩し」についてちゃんと議論していたのである。
 仕切り直し第2回目では。

【野尻委員】
 まず1つ目は、やはり退職後の時間が30年、40年という時代になっていく中で、金融資産をどう取り崩すかというところをもっとフォーカスを当てていただきたいなと思いました。言葉としては含まれているわりに、資料の中にどう取り崩すかというところが弱いように思います。資産構成、我々はついつい運用というと長期、分散、時間分散、これをやっていればいいみたいなことを言われるんですけれども、やはり退職後になるとどうやってリスクを減らしていくか、リスクをどう扱ったらいいか、定額で引き出すのがいいか、定率がいいかとか、Sequence of Returns Riskはどう取り上げるのかといったことは、日本ではほとんど議論されてこなかったと思います。やはり取り崩しに対して考え方、理論等をもっと議論する必要があるんじゃないかと思います。

 仕切り直し第3回目では。

【永沢委員】
 それから、野尻さんのお話ですが、私も時々、資産形成はどうあるべきかみたいなお話をして欲しいと頼まれてしておるわけですけれども、資産の取り崩しが非常に重要なところと、聞いてくださる皆さん分かってくださっているのですが、その方法について日本人として共有できるものが現時点ではないことにもどかしいものを感じております。この点、アメリカでは取り崩し戦略的な議論が相当なされているようです。日本人は右に倣えという傾向がありますので、こうすればいいという方向性が示されると行動を起こすことができるのではないかと思います。知恵を集めて、取り崩しの方法論を示すことができれば、動かない日本人も一歩動けるのではないかと思っております。

 ところが!
 この話、審議会が進むにつれ、「取り崩し」の議論はだんだんか細くなり、そして。整理されちゃったみたいなのだ。通算の第20回では。

【神田座長】
 これら以外にも、長い人生をリタイヤ期前後以降でも、長い人生があり得るということでございますので、これを見据えて中長期的な資産運用の継続、長期・積立・分散投資等の中長期的な資産運用を継続していただき、その後計画的な取り崩しというのを実行していただくとよいのではないかということでございます。

 つまり、「取り崩し」は確かに問題だが、第1フェーズは資産運用にしましょうということだ。つまり、「それ今の話題にしないからね」ということだ。当初がんばったかに見えた野尻委員もこう、切り分け論に賛同する。

【野尻委員】
 それから、同じ資料5ですが、リタイヤ期前後の3つ目のレ点のところを読みますと、「中長期的な資産運用の継続(長期・積立・分散投資等)と計画的な取崩しの実行」、これも細かい点ではあるのですが、積み立てしながら取り崩しをしましょうというのはロジックとしてはとても合わないと思っておりまして、取り崩したお金をまた積み立てしますという話は、毎月分配型投信の分配金を受け取って、それをまた再投資するみたいなイメージにつながりますので、私としては、ここは長期とか分散投資は大事だと思うのですが、取り崩しの時期に積み立てという言葉が重なることは、メッセージとしてはあまりクリアにならないのではないかと思っております。どう書き直していくべきかは、別途、議論を必要とするのではないかと思います。

 まあ、切り分けるなら、それはそれでいいのだけどは思ったが、どう考えたって、「取り崩し」は大きな課題として残るよな、そのあたり、金融庁としてはどうなの(厚労省としての対応もあるにはあるが)、と見ていくと、発見! 
 平成30年7月3日に『「高齢社会における金融サービスのあり方」(中間的なとりまとめ)』が金融庁がから出ていた。

 金融庁では、平成29年11月の金融行政方針に「我が国の高齢化率は世界の中でも最も高い水準となっており、退職世代等に関する取組みが重要な課題であることから、退職世代の金融資産の運用・取崩しをどのように行い、幸せな老後につなげていくか、金融業はどのような貢献ができるのかについて、外部有識者の知見を活用しながら、検討を進める。」としております。
 上記方針を踏まえ、今事務年度を通じて継続的に、高齢化が進行する現状や退職世代等を取り巻く状況、退職世代等が抱える課題等について、学識経験者、シンクタンク、金融機関、業界団体等へのヒアリング等も行いながら、金融庁において整理・分析を進めてきました。
 この度、これまで整理・分析をしてきた内容について中間的にとりまとめましたので公表いたします。
 今後、今回公表させていただいた考え方を基に各方面と議論をしながら、さらに検討を深めてまいりたいと考えております。

 で、これ、審議会がない。金融庁が勝手にまとめていた。
 で、もうおわかりでしょ?
 これ、「平成30年7月3日」。
 昨日のブログ『昨今の年金問題の発生源を探してみたら、なんだこりゃ案件だった』で触れた。これじゃないですか。

「第12回 平成28年12月20日(火)」と「第13回 平成30年9月21日(金)」に2年近い謎のリープがある。

 謎が解けましたね。(ってか、今頃わかったのは私のようにボケたブロガーくらいだろうが。というか、審議会資料を読んでいたら普通にわかる。)
 つまり、この『金融審議会 市場ワーキング・グループ』のリブートは、金融庁がそれまで別系で独自にやっていた『「高齢社会における金融サービスのあり方」(中間的なとりまとめ)』を、とりあえず既存の別の審議会で引き継いだものだったわけね。だから、今回の報告書も副題がその痕跡で「高齢社会における資産形成・管理」となっていた。
 で、この流れから見れば、この話題は麻生金融担当相の諮問じゃないんじゃないの疑惑は深まる、と。
 さて、これで一つ謎が解けたわけだが、「高齢社会における金融サービスのあり方」では「取り崩し」がそれなりに意識されていたのに、今回の「高齢社会における資産形成・管理」ではその部分が後のフェーズとして位置づけられ、実質切り捨てられた。どうすんのそっちは?
 というか、資産切り崩しにどう対応するかという議論をしないために、審議会にこの話題をぶちこんだんじゃないのか?
 当の大問題である、資産切り崩し、つまり、現実には、金融資産は早期に枯渇するのだから、実物資産のリバース・モーゲージの活性化をどうするのか?
 もっというと、現状銀行が十分に対応できないリバース・モーゲージの公的なリスク対応をどうするのかという問題を、金融庁がきちんと、審議会を開いて、議論しなきゃいけないんじゃないの? Hein?

 

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2019.06.17

昨今の年金問題の発生源を探してみたら、なんだこりゃ案件だった

 6月3日に発表された金融庁審議会の報告書が火元になって、老後の生活費は年金では足りず、老後の30年間のためには各人が二千万円の蓄えが必要だ、という話題になり、国は国民の生活を守らないのかうんぬんプンスカ、という話題になっている。そしてさらに、有識者に報告書作成を依頼する立場の麻生金融担当相が、これじゃ国民に誤解と不安を与えるから報告書を受理しない、とし、なんだその無責任さはプンスカ、という話題にもなった。かくしてネットにはこの話題がいろいろ広がり、まあ、いろいろ意見もあるようだ。
 私としては、19年間近くもブロガーやっているので、さーて、こうした炎上案件では第一次資料を見るかなと、見てみた。『金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書』である。副題は「高齢社会における資産形成・管理」である。発表日は令和元年6月3日である。冒頭はこう。

はじめに
 近年、金融を巡る環境は大きく変化している。例えば、デジタライゼーションの急速な進展により、金融・非金融の垣根を越えて、顧客にとって利便性の高いサービスを提供する者が出現している。こうした者の出現や低金利環境の長期化等の状況と相まって、金融機関は既存のビジネスモデルの変革を強く求められている状況にある。
 こうしたなか、金融を巡る特に大きな背景の変化として挙げられるのが、人口減少・高齢化の進展である。わが国の総人口が減少局面に移行した中、長寿化は年々進行し、「人生 100 年時代」と呼ばれるかつてない高齢社会を迎えようとしている。(中略)政府全体の取組みや議論に相互関連して、高齢社会の金融サービスとはどうあるべきか、真剣な議論が必要な状況であり、個々人においては「人生 100 年時代」に備えた資産形成や管理に取り組んでいくこと、金融サービス提供者においてはこうした社会的変化に適切に対応していくとともに、それに沿った金融商品・金融サービスを提供することがかつてないほど要請されている。

 なんだか無内容なことがたらたらと書かれているようだがそれなりに読んでみると、話題の焦点は「金融サービス提供者」に置かれていることはわかる。
 つまり、ごく簡単にいえば、金持ち老人がもっと金を増やすための金融サービスはどうあるべきか、というのがテーマで、年金だけじゃ暮らしていけないという庶民の関心とはまったく関係なさそうな文書である。

 今回のプンスカ焦点である「年金」を見ていくと、こうある。

 しかし、収入も年金給付に移行するなどで減少しているため、高齢夫婦無職世帯の平均的な姿で見ると、毎月の赤字額は約5万円となっている。この毎月の赤字額は自身が保有する金融資産より補填することとなる。

 これ、現状の「高齢夫婦無職世帯の平均」で見ると、現実、「赤字額は約5万円」で、資産から補填されているという話だ。平均化すると、高齢者は多額の資産をもっていて切り崩している現状があるという話である。今後、年金だけでは生活費が5万円足りなくなるという話ではない。
 実際、平均で見ると、高齢層は資金を持っているという指摘がある。事実であろう。

(前略)65 歳時点における金融資産の平均保有状況は、夫婦世帯、単身男性、単身女性のそれぞれで、2,252 万円、1,552 万円、1,506 万円となっている。

(前略)前述のとおり、夫 65 歳以上、妻 60 歳以上の夫婦のみの無職の世帯では毎月の不足額の平均は約5万円であり、まだ 20~30 年の人生があるとすれば、不足額の総額は単純計算で 1,300 万円~2,000 万円になる。この金額はあくまで平均の不足額から導きだしたものであり、不足額は各々の収入・支出の状況やライフスタイル等によって大きく異なる。

 つまり、「平均」像から見るとそうなるということで、国民の多数がこれに当てはまるかというと、まあ、当てはまらない。あてはまるわけもない。そもそも、この報告書は、そういう目的で書かれたものではない。
 ただ、現在の国民が求めているのは、こんな報告書ではなく、これからの日本国民の多数の老後の生活像だろう。
 その意味でいうなら、これからの日本国民の多数の老後がどうなるのか、ということを議論する審議会を作って、その趣旨の報告書を作れよ、ということなるが、たぶん、それは厚労省の管轄だろう。
 さて、この金融屋のパンフみたいな文書の冒頭を読み返すと、ちょっとひっかかることがあった。これだ。というか冒頭のさっきの続きである。

 このような問題意識の下、金融審議会市場ワーキング・グループにおいて、高齢社会のあるべき金融サービスとは何か、2018 年7月に金融庁が公表した「高齢社会における金融サービスのあり方(中間的なとりまとめ)」を踏まえて、個々人及び金融サービス提供者双方の観点から、2018 年9月から、計 12 回議論を行い、その議論の内容を報告書として今回提言する。(中略)

 というわけで、これ、審議会の議事録が公開されているはずなので、ブロガーらしく一次資料を見に行く。まず、「金融審議会「市場ワーキング・グループ」(第1回)議事録」から。学習院大学の神田秀樹氏が座長。

 本日は初回でございますので、まずこのワーキング・グループについて簡単にご説明をさせていただきたいと思います。このワーキング・グループでございますけれども、本年4月19日に開催されました金融審議会の総会・金融分科会の合同会合におきまして大臣からいただきました諮問を受けて設置されたものでございます。
 お手元に諮問文を配付していると思いますけれども、諮問におきましては次のように述べられております。すなわち、「情報技術の進展その他の市場・取引所を取り巻く環境の変化を踏まえ、経済の持続的な成長及び家計の安定的な資産形成を支えるべく、日本の市場・取引所を巡る諸問題について、幅広く検討を行うこと」でございます。

 これ、どう読んでも、高齢社会とか資産形成というかいうワーキンググループじゃないよな。というか、とっても奇妙な感じがした。どこかで、このワーキンググループの方向性が変わったのだろうかと見ていく。と、あれれ?
 「第12回 平成28年12月20日(火)」と「第13回 平成30年9月21日(金)」に2年近い謎のリープがある。
 というわけで、この第13回の議事録を見る。

 このワーキング・グループでございますけれども、今から2年半ほど前の平成28年4月に麻生金融担当大臣から、「市場・取引所を巡る諸問題に関する検討」という諮問をいただきまして、それを受けて金融審議会のもとに設置されたワーキング・グループであります。平成28年の5月から12回にわたって皆様方からご議論をいただき、また関係者の方からヒアリング等もしながら審議を進めて、顧客本位の業務運営、あるいは取引の高速化等についてご審議をいただきました。平成28年の12月には、約2年弱前ですけれども、報告書を公表いたしました。
 その後、金融庁においては国民の安定的な資産形成に向けた取り組みを進めてきまして、近いところでは本年6月に「投資信託の販売会社における比較可能な共通KPI」を公表するなど、顧客本位の業務運営の定着に向けた施策を進めてきました。このほか本年1月につみたてNISAの導入、それから本年の7月になりますけれども、「高齢社会における金融サービスのあり方」の中間的な取りまとめというものを公表しております。
 そこでこのたび、「高齢社会における金融サービスのあり方」など「国民の安定的な資産形成」を中心に議論をさらに深めるために、このワーキング・グループが再開されることとなった次第です。
 本日は、ワーキング・グループの通算で、第13回目の会合となりますけれども、前回から約1年9カ月ぶりの開催ということになりますので、初めに、事務局である金融庁の遠藤長官からご挨拶をいただきたいと存じます。遠藤長官、よろしくお願いいたします。

 これ、普通に読むと、当初大臣から諮問された報告書は、平成28年12月に公表され、事実上、ワーキンググループは終了している。
 ところが、金融庁の都合で、別の話題である《「高齢社会における金融サービスのあり方」など「国民の安定的な資産形成」を中心》としたなんかを、気ままに、ここにぶち込んできたようだ。
 これって、きちんと、麻生金融担当相の諮問を経ているのか?
 これって、金融庁がこのテーマを作りたくて、既存のワーキンググループに押し込んだんではないのか?
 金融庁の遠藤長官の話もこんな感じだ。

 ご案内のように、我が国では1,800兆円という家計金融資産、この過半が現金・預金ということでございます。過去20年間、その伸びも非常に低い水準になっております。この豊富な資産が有効に運用、活用されているとはとても言い難い状況ではないかと思っております。

 これって、端から、金持ち高齢層に投資をさせようという話だ。金融庁の活躍場を広げるためのもので、そもそもが年金問題なんてこの時点での冒頭にないじゃん。
 ええと、まとめると。
 これ審議会のあり方がそもそもがおかしい。別の話題を、どさくさに既存の審議会に混ぜ込むのではなく、少なくとも、別途専門の審議会を立ち上げて、もっと庶民の年金問題にも配慮できる人選もして、きちんとした議論をすべきであったと思う。

 

 

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