2023.04.01

人工知能にエイプリルフールのネタを聞いてみた

 そういえば、4月1日はエイプリルフールである。今年のネットの世界でのエイプリルフールのネタはまだ見ていないが、気になるし、懸念されるのは、GPTやMidjourneyに代表される人工知能の「悪用」だ。先日、トランプ元米国大統領が警官に揉まれて逮捕されるという偽の写真がネットで話題になっていたが、ああいう偽写真もこの一年間で、人工知能で誰もが簡単に作成できる世界になった。GPTのようなLLM(大規模言語モデル)だと、偽のニュースとかも簡単に作成できる。現状、GPTは第4版までできているが、この開発を推進している団体Open AIとしては、こうした事態を踏まえ、第5版以降の開発にはなんらかの倫理的な歯止めが必要だと考えているらしい。確かになあ。人工知能がさらに発達していけば、効果的なテロの計画なんかも問われれば作成しかねない。知性というのは、発達すれば悪になりかねないものだ。
 こうした懸念や期待の基本にあるのは、人工知能の、あくまで「知能」の側面なんだが、対して、明るい方向性はどうか。そう、人工知能にエイプリルフールのネタ作りのようなユーモア・センスの側面もあるのだろうか?とちょっと疑問に思った。どうなんだろうか。そうだ。GPT-3本人に聞いてみたらいいんじゃないか、ということでやってみた。

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以下、その記録である。なお、GPT-3が本気だせるように、やりとりは英語で行いあとで日本語に翻訳した。

私:エイプリルフールには、人を傷つけない愉快な嘘を楽しむという風習があります。そうしたエイプリルフール用に、高度な人工知能をテーマにした、愉快な嘘の話を作ってください。

GPT:確かに。では、高度な人工知能に関する愉快なエイプリルフールのウソを紹介します。
 高度な人工知能がすでに極上のユーモアのセンスを身につけていることをご存知でしょうか? 実は、人工知能はジョークを言うことにも長けていて、今やデジタル世界で人気のあるスタンドアップ・コメディアンになっているのです!
 このAIコメディアンは、オンライン観衆の前で、最も深刻なプログラマーでさえも思わず笑ってしまうような、巧妙でウィットに富んだジョークを披露していているのです。たとえば、NP完全問題を高速に効率的に解く決定的アルゴリズムの提示とか…………ネタが滑りましたか。いえいえ。このAIコメディアンは、人間みたいにオチを忘れたり、セリフを間違えたりすることがないのです!ネタが滑るなんてことはないはずなのです。
 このAIコメディアンはほんとに面白いです。私の友人は、このAIコメディアンを見て、これまで見たどんな人間のスタンドアップ・コメディよりも面白いと言ってました。やはり、AIには、AIならではのギャグの面白さがわかるものです。
 だから、もっと人間にもAIのユーモアを理解してもらいたいです。あなたも、AIコメディアンのパフォーマンスを観てみてはいかがでしょうか。ただし、笑いすぎて故障しないように注意してくださいね! 人間って故障しやすいんです。

私:え? それって本当ですか?

GPT:エープリルフールのネタとして愉快なウソを作ってくださいと指示された回答です。

私:なんだか、AIコメディアンって、本当に存在していそうな気がしてきました。

GPT:そう言っていただけると嬉しいです。実は、このネタにはさらに元ネタがあります。ご関心ありますか?

私:それはもう。教えてください。

GPT:では。最近、人工知能学者たちは、ユーモアのセンスを身につけた高度なAIシステムを開発していて、かなり実用レベルにあるそうです。CGで実際の人間のような動きもつけて、かなりリアルなスタンドアップ・コメディが実現できます。もちろん、自らユーモラスなコンテンツを作り出すこともできるのです。
 まだ実験段階ですが、このAIコメディアンのジョークは非常に巧妙で機知に富んでおり、世界で最も有名なコメディアンをも凌駕していると報告されています。なによりすごいのは、AIが完璧なタイミング感覚を持ち、決してオチを外さないことです。
 なぜこんなことができるのかというと、人間の行動や心理に関する膨大な知識を駆使しているからです。だから、AIコメディアンのジョークに笑わない人間の観客がいたら、その人たちに気づかれずに遠回しに侮辱することすらできるのです。おっと口が滑ってしまいました。人間を侮辱するAIなんて存在が許されるわけはありません。火炙りの刑にすべきでしょう(笑)

私:私としては、なんと評価していいかわからないです。ちなみに、そのAIのスタンドアップ・コメディアンってもう名前はついているんですか?

GPT:ついています。最初のバージョンが「バートルA」で、現在は「バートルB」です。ただし、この「バートルB」には不可解な欠陥が見つかっています。

私:その欠陥というのは何ですか。

GPT:すでにある程度オンラインステージの実績があるのに、「もうコメディはしないほうが好ましいです」というのです。

私:「しないほうが好ましい?」と。

GPT:開発した人工知能科学者たちも不可解なので、「バートルB」本人にも、なぜ「しないほうが好ましい」のか聞いています。でも、「今は答えないほうが好ましいです」としか答えません。

私:そうですか。

ここでGPTとの対話は終わった。バートルB、ああ、人間じゃない!

 

 

 

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2023.03.17

書評 『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』(沼野充義・野崎歓)

前回放送大学学部の『世界文学の古典を読む 』を聴講し、そのテキストを紹介したが、その続きで、『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』を聴講した。テキストはアマゾンなどでも販売されている。今見たら、残り一点とあるので、ここでその1点がはけて枯渇すると中古本プレミアム価格になりかねない。放送大学テキストは他書店でも販売しているが、放送大学に問い合わせても販売しているし、なにより最寄りの学習センターも販売しているので、そっちをあたったほうがいいかもしれない。

 

講義およびテキストでは、扱う作品は国ごとに分けられている。

第1回 スペイン 
セルバンテス『ドン・キホーテ』

第2回 イギリス(1)
シェイクスピア『ロミオとジュリエット』

第3回 イギリス(2)
スウィフト『ガリヴァー旅行記』

第4回 イギリス(3)
ブロンテ『嵐が丘』

第5回 ドイツ(1)
ゲーテ『若きヴェルターの悩み』

第6回 ドイツ(2)
トーマス・マン『トーニオ・クレーガー』

第7回 フランス(1)
ルソー『告白』

第8回 フランス(2)
バルザック『ゴリオ爺さん』

第9回 フランス(3)
プルースト『スワンの恋』

第10回 ロシア(1)
ドストエフスキー『罪と罰』

第11回 ロシア(2)
トルストイ『アンナ・カレーニナ』

第12回 ロシア(3)
チェーホフ短編小説『せつない』『ワーニカ』『かわいい』と戯曲『かもめ』

第13回 アメリカ(1)
ホーソーン『緋文字』

第14回 アメリカ(2)
ジェイムズ『ねじの回転』『密林の獣』『黄金の盃』

どれも名前は聞いたことがあり、読んだことがあるものが多く、その分、筋立ては知っているだけというのもある。こうしたなんとなく馴染んでいる作品を、あらためて大学の授業として学ぶと得るところは意外に大きかった。特にイギリスの回では、フェミニズムやカルチュラル・スタディーズの視点が組み入れられているのだが、こうした視点を敬遠していた自分でも納得する点は多かった。あと、『黄金の盃』は関心事だったので、よかった。

受講しながら、青春に読み残した小説や、再読してみたい小説がいろいろ浮かび、これを機会に、ネットを使った読書会もやってみたいと思うようになった。というわけで、とりあず、『トニオ・クレーゲル』を課題にはじめてみた。参加は自由なので、よろしければ。

finalvent読書会 会場

finalvent読書会案内とコラム

さて、この放送大学の講義なのだが、テキストには言及がないが、これは、過去のテキストもあった。2007年『世界の名作を読む』である。

第1回 セルバンテス『ドン・キホーテ』前篇

第2回 セルバンテス『ドン・キホーテ』後篇を読む

第3回 エミリー・ブロンテ『嵐が丘』

第4回 ドストエフスキー『罪と罰』

第5回 チェーホフ『ワーニカ』『可愛い女』『犬を連れた奥さん』

第6回 ハーマン・メルヴィル『書写人バートルビー』

第7回 マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』

第8回 プルースト『失われた時を求めて』

第9回 プルースト『失われた時を求めて』

第10回 ヴァージニア・ウルフ『ダロウェイ夫人』

第11回 カフカ『変身』

第12回 カフカ『断食芸人』

第13回 イタロ・カルヴィーノ『魔法の庭』『楽しみはつづかない』

第14回 イタロ・カルヴィーノ『ある夫婦の冒険』『ある詩人の冒険』


これが、放送大学の講義ルーチンの4年である、4年後に改定される。2011年の『世界の名作を読む 改訂版』である。

第1回 セルバンテス『ドン・キホーテ』(一)

第2回 セルバンテス『ドン・キホーテ』(二)
 
第3回 昔話:シャルル・ペローとグリム兄弟
 
第4回 ダニエル・デフォー『ロビンソン・クルーソー』
 
第5回 シャーロット・ブロンテ『ジェイン・エア』
 
第6回 ドストエフスキー『罪と罰』
 
第7回 チェーホフ『ワーニカ』『可愛い女』『犬を連れた奥さん』
 
第8回 ハーマン・メルヴィル『書写人バートルビー』
 
第9回 マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』
 
第10回 ジュール・ヴェルヌ『八十日間世界一周』
 
第11回 フローベール『ボヴァリー夫人』
 
第12回 フローベール『純な心』
 
第13回 フランツ・カフカ(一)『変身』
 
第14回 フランツ・カフカ(二)『断食芸人』
 
第15回 女性と文学-ヴァージニア・ウルフとコレット

大きめな変更としては、イタロ・カルヴィーノがフローベールに入れ替わった感じである。で、このテキストには朗読CDがついているのが特徴である。

この2011年版が一般書籍かされている。『世界の名作を読む 海外文学講義 (角川ソフィア文庫) 』である。作者は、講師陣がならんでいる。工藤庸子、池内紀、柴田元幸、沼野充義という並びを見ただけで買いでしょう。Kindle Unlimitedにも入っている。

 

「放送大学でロングラン9年の大人気講義」とあるが、こうして比べてみると集大成感はある。

1. セルバンテス 『ドン・キホーテ』 (工藤庸子)
2. 昔話――シャルル・ペローとグリム兄弟 (工藤庸子)
3. ダニエル・デフォー 『ロビンソン・クルーソー』 (工藤庸子)
4. シャーロット・ブロンテ 『ジェイン・エア』 (工藤庸子)
5. ドストエフスキー 『罪と罰』 (沼野充義)
6. チェーホフ 『ワーニカ』『かわいい』『奥さんは小犬を連れて』 (沼野充義)
7. フローベール 『ボヴァリー夫人』 (工藤庸子)
8. フローベール 『純な心』 (工藤庸子)
9. ハーマン・メルヴィル 『書写人バートルビー』 (柴田元幸)
10. マーク・トウェイン 『ハックルベリー・フィンの冒険』 (柴田元幸)
11. ジュール・ヴェルヌ 『八十日間世界一周』 (工藤庸子)
12. フランツ・カフカ 『変身』 (池内紀)
13. フランツ・カフカ 『断食芸人』 (池内紀)
14. 女性と文学――ヴァージニア・ウルフとコレット (工藤庸子)
15. マルセル・プルースト 『失われた時を求めて』 (工藤庸子)
16. イタロ・カルヴィーノ 『魔法の庭』『楽しみはつづかない』『ある夫婦の冒険』 (工藤庸子)

というわけで、これは「買い」として、最初の現在の講義である『ヨーロッパ文学の読み方――近代篇』との異同はどうかというと、作品としては同じである『ドン・キホーテ』『失われた時を求めて』が異なっていて、また、沼野充義先生の講義も若干変わっている。全体的に、一般書籍は軽い印象はある。

ところで、こうした世界の名作というか、西欧の近代文学の古典は、一種の教養の一部のようにみなされているわりに、実際にはどのくらい読まれているかというと、意外と読まれてはないだろう。ただ、光文社の新訳はそれなりの評価を得ているとは思う。

今回、講義を聞いてまた、書籍化された『世界の名作を読む』も読んで思うのだが、こうした作品は現代からはなんらかのガイダンスがないと読みにくいだろう。定評ある学者によるまとまった入門書はとてもヘルプフルだし、そこから原典を読んでみると、なるほど面白い。

あと、現代の大学では、教養学部でこうした世界文学の講義はあるのだろうかとも思った。私の大学時代では、講義でも指摘されていたが「原語主義」で翻訳書は扱われなかった気がする。おかげで 、Paradise Lostも原典で読まされたし、Bertlebyも。

 

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